本日は、吉祥寺 古典を読む会の5月定例会でした。

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今回取り上げたのは、源義経を「悲劇のヒーロー」化した作品の一つ、『義経記(ぎけいき)』です。

義経記 新編日本古典文学全集 (62)/小学館


室町時代に成立したとみられる、この作品は、鎌倉時代の中ごろに成立した『平家物語』とは違う形で、義経を描き出します。『平家物語』では、「鵯越の逆落とし」「弓流し」など、武勇の英雄としての姿を描かれる義経ですが、『義経記』で描かれるのは、むしろ、子どものころの逸話、そして、兄 頼朝との不和以降の悲劇の日々です。今日の定例会では、静との別れ、静の身を襲う悲劇、義経の自害など、悲しいシーンを中心に読みました。

歴史的事実として、確実に分かっていることは少ない義経だけに、後世の人々は、想像力をたくましくして義経を描き出します。

義経伝説 歴史の虚実 (中公新書)/中央公論新社
 

こちらの本で「(『義経記』は)歴史への願いからその伝記を物語ろうとするもの」という言葉がありましたが、『義経記』は時に史実を離れ、王朝物語の貴公子のような、繊細で、情緒的な義経を描くのです。

ちなみに、ルックスも変貌を遂げます。

『平家物語』では(平家方の野次としてですが)、「九郎は色白うせいちいさきが、むかばのことにさしいでてしるかんなるぞ(義経は、色白で背が小さく、出っ歯が飛び出ているので、すぐにこれが義経だと分かるようだよ)」と言われているのですが、『義経記』では、

「きはめて、色白く鉄漿黒に、薄化粧して眉細くつくりて、衣引きかづき給ひたりければ、姿松浦佐用姫が領巾振る山に年を経て、寝乱れ髪の隙より、乱れて見ゆる黛、鶯の羽風にも乱れぬべくも見え給ふ。玄宗皇帝の時ならば、楊貴妃とも言ひつべし。漢の武帝の世なりせば、李夫人かとも疑はる。」

となってしまうのです! なんと!


こうした義経像の変遷は興味深く受け止めていただけたようです。皆様からのご感想の一部を紹介しますね。


「伝説にあふれた義経ですが、そのときどきの日本人の心にフィットするように、時代を経て展開しているのだと感じました」

「義経の最期は悲しいですね」

「『義経記』の歴史的な位置づけのようなものが、分かって良かった。短い時間で、『義経記』の全貌を知ることができた」

「兼房が、つらい役回り過ぎる。『義経記』の描写が生々しくて、強く印象に残りました」


こうした古典入門講座をお聞きになりたいという方は、次月の「吉祥寺 古典を読む会」の定例会(6/19(日)14時『源氏物語』玉鬘十帖)、あるいは、千葉県市川市のカルチャースクール NHK学園の講座にお越しくださいませ。

吉祥寺古典を読む会のご案内

NHK学園市川オープンスクール