本日(2014.2.25)実施の東大入試・古文(文系・理系)の現代語訳を作りました。
「分限になりける者は、その生まれつき格別なり」から始まる文章(『世間胸算用』巻五)です。
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裕福になる者は、生まれついたときから特別である。ある人の息子は、九歳から十二歳の暮れまで、手習いに通わせたところ、その間の筆の軸を集め、自分のものの他にも、人の捨てたものも集めて、間もなく十三歳の春に、自分の手細工として軸すだれをこしらえ、一つを一匁五分ずつで、三つまで売り払い、初めて、銀四匁五分を儲けたこと、自分の子どもながらただ者ではないと、その親にとっては嬉しくてたまらないために、手習いの師匠に話をしたところ、師匠はこのことを良いとは褒めなさらなかった。
「私はこの年まで数百人の子どもを預かって、指南し、見てきたが、あなたの子どものように、気の付きすぎる子どもで、後々に裕福に暮らしている例はない。かといって、乞食をするほどの境遇にはならないものの、中流階級より下の暮らしをするものである。あなたの子どもだけを賢いものだとお思いになってはいけない。
あなたの子どもより、うまく手を回す子どもがいる。自分の掃除当番の日はいうまでもなく、他の人が掃除当番である日も、甲斐甲斐しくほうきを取って座敷を掃き、たくさんの子ども達が毎日使い捨てた反古の紙でまるまっているのを一枚一枚のばして、毎日屏風屋に売りに行ってから帰る者もいる。これは、筆の軸のすだれよりも当座の役に立つことだけれど、これもよろしくはない。
また、ある子どもは、紙を余計に持ってきて、紙の使用に事欠いている子どもに、一日一倍増しの利息でこの紙を貸し、一年中で積もったその利息はどれほどであるとも言えないくらいのすごいものだ。
これらは皆、それぞれの親の生活の抜け目ない性格を見習ったもので、自然と出てくる本人の知恵ではない。
その中でも、一人の子は、父母が朝に夕におっしゃったことに、『他のことを考えず、手習いに集中しなさい。大人になって、自分の身に役立つことです」との言葉であり、親の言葉ををいい加減にはできないと、明け暮れ読み書きに集中し、後には、兄弟子などを抜いて、達筆となった。この心がけからは、将来裕福になるところが見受けられる。
その事情は、この子の心がけは、ひたすらに家業に専心して稼ぐということに通じるからだ。だいたい、親から続けている家業の他に商売をかえて、うまく続いているのは稀なことだ。手習いに来る子どもたちも、自分の役割である字を書くことを忘れて、若い内から抜け目なくあるのは、無用の欲心である。それによって、子どもたちの第一のつとめである習字を書かないことは呆れるばかりである。
あなたの子どものことだけれども、そんな風な発想は良いことだとは言い難い。とにかく少年の間は、花をむしったり、タコを揚げたりすれば良いのであって、知恵がついてきたときに自分の身を処し定めることこそが、人の生き方の常道である。七十歳になる私の申したこと、それが当たっているか行く末をご覧あれ」と言い置いた。
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