鷲田清一さんの文章は、国語・現代文の入試によく登場します。
都立新宿高校(2013年度)でも、『語りきれないこと 危機と傷みの哲学』が出題されていました。「『市民』・『公論(パブリック・オピニオン)』とは何か」ということを論じた箇所です。
ここでは、「市民」というのは、「住民」でも「国民」でもないと説明されています。住民や国民は、自分の地域や国の利害に基づいて発言するでしょう。それに対し、「縁とかしがらみとか制度とかを超えた次元にみずからを置きなおして、ことがらに即した議論をする」のが「市民」のあり方である、と。
また、今の世論調査は、皆の印象や感情(ポピュラー・センチメント)を示しているだけであり、「公論(パブリック・オピニオン)」ではないだろう、とも述べられています。「公論」という語は、「市民」として皆が議論に参加し、専門家の意見も聞きながら、熟議を繰り返した上で編み上げられる公共的な意見・見識を指して用いられるべきなのである、と。
この提言は、民主主義のそもそもの部分に立ち返ったものであると思います。この言葉が新鮮に感じられるのは、私たちが、それぞれが自分の意見をぶつけ合い、その勝負の結果や妥協の産物として政策が編まれていく状況に慣れてしまったからではないでしょうか。
語りきれないこと 危機と傷みの哲学 (鷲田清一、角川oneテーマ21)/角川学芸出版

国語(現代文)の指導をしていると、自分の選書ルートでは出会えなかったであろう面白い本を知ることができて嬉しいです

ちなみに、新宿高校の出題では、
「わたしたちはオピニオンで動いておらず、オピニオンと思いこんでいるセンチメントで動いている」とあるが、このことについてあなたはどう思うか、自分の学校生活から具体例を挙げて二百字以内で述べよ。
という作文問題がついていました。大人でも答えに窮するような出題。
「これが自分自身の入試本番で出されたら、辛いだろうな~
」と思う一方、受験生が、この過去問を解くことによって現代社会について考察をする機会を持つということは素晴らしいと思います
教養としての大学受験国語 (ちくま新書)/筑摩書房

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