ところで、現代ハロウィーンの代名詞といえば、オレンジ色のカボチャを不気味にくり抜いて作るちょうちん「ジャック・オ・ランタン」だろう。
ハロウィーンが近づくと、街の至るところにこのカボチャちょうちんをデザインした商品や飾り付けが並ぶ。
その由来にはいろいろな言い伝えがあるが、基になっているのは各地に伝わる「鬼火」伝承だろう、と辺見さんはみる。
「妖精」の仕業とされるいたずらの一種で、墓場や沼地などに現れて旅人をおどかしたり道に迷わせたりする火の玉だ。
「ジャック・オ・ランタンは、『鬼火』につけられた呼び名の一つで、ウィル・オ・ザ・ウィスプなど、いろいろな呼び名があります。
民話では天国にも地獄にも行けずにこの世をさまよう魂であるとか、洗礼を受けずに死亡した幼児の魂、悪意ある妖精、などとして出てきます。
ジャックもウィルも、特定の個人を指す名前ではなく、こうした物語でさまよい続ける死者の魂や妖精につけられた呼び名ですね」
ジャック・オ・ランタンも、同じく「鬼火」となって地上をさまよう死者/妖精だ。
手に持つ灯りは、元々はカブをくり抜いて作られていたようだ。
これがアメリカに渡り、カボチャをくり抜いて作ったものに変わったが、その不気味な顔は、「鬼火」が起源なのだと分かると、納得がいくのではないだろうか。
ハロウィーンは「ケルト」起源という説明をよく見かけるが、ところで、「ケルト」とは具体的には何を指すのか。
ウェールズに起源を持つというアーサー王の物語も「ケルト」の伝承と呼ばれるし、世界的な人気を誇るアイルランド出身の女性ミュージシャン・エンヤの音楽も、「ケルティック・ミュージック」と呼ばれている。
さらに古代の大陸の「ケルト人」と呼ばれる人々との関係はどうなっているのかなど、「ケルト」というのは実体がつかみにくい言葉かもしれない。
古代の「ケルト人」と呼ばれる人々は、紀元前のヨーロッパに広く分布し勢力を持ったが、統一国家を持たず、最大勢力であったガリアはローマのユリウス・カエサルに紀元前1世紀に征服された。
「幻の民族ケルト人」などといわれることもあるが、辺見さんによると、学問の世界では、「ケルト」を規定するのはあくまでも言語で、人種や民族といった捉え方はされなくなっている。
「アイルランド、スコットランド、ウェールズ、仏ブルターニュ地方でいまケルト語系の言語を話している人々と、古代のケルト人と呼ばれている人たちの確実な共通項は、言語しかないのです。
古代と現代の『ケルト』を同一の文化や宗教観、価値観で結びつけることは、少なくとも学問の世界ではしません。
大陸の『ケルト』自身、文字文献を残さなかったので、サウィンについても古代の記録は何もないんですね。
あるのは、ギリシア人やローマ人といった文明の側が彼らを『北方の野蛮人』として見て記録したものです。
ケルト語圏の伝承は、『異界』を想起させる、神秘的・ロマンティックなイメージが強いですが、そういったイメージのかなりの部分は、主に19世紀の『ケルト文芸復興』の動きの中で作り上げられたものです。
実際の、中世のアイルランドやウェールズの文学、つまり『ケルト語』で書かれた物語は、もっとダイナミックで多様性に富んでいて、興味の尽きない研究対象です。
世界中に広がっているハロウィーンの起源には、そんなケルト語伝承の世界に登場するサウィンがあります。
ハロウィーンをきっかけに『ケルト』に思いを馳せていただけたらうれしいです」
