
これにより「パート世帯」「片働き世帯」「共稼ぎ世帯」間のアンバランスがなくなるという大きなメリットがある一方、夫と妻の適用税率が異なる場合には、 就労に抑制的な効果も生じることや、配偶者が65万円から141万円の場合には税負担が増加するという問題点がある。
この案の詳細については第68回を参照いただきたい。
B-2案は、世界に誇るワークライフバランスを作り上げたオランダで導入されているもので、所得控除を税額控除に替えていくので、所得再分配機能も大いに高まる効果がある。
しかし現実は、9月15日付日本経済新聞のインタビューで、自民党政調会長が5番目の夫婦控除の具体案に触れるなど、C案の「夫婦控除」に議論が集約されていくようだ。
では「夫婦控除」の根拠は何か。
「若い世代の結婚や子育てに配慮する観点から、夫婦世帯に対して新たな控除を創設する」というのが政府税調の説明である。
結婚をすれば配偶者の所得いかんにかかわらず控除がもらえるので、税制が結婚に対して中立的ではなくなるという批判もあるが、わが国の置かれた少子化という現実の下では、税制がある程度 結婚を支援することには、意義があるというべきであろう。
いまだ具体案は出ていないが、新たに配偶者控除と同額の「38万円の所得控除」を設けることになると考えるのが常識的だ。
問題は、この控除の所得制限である。
配偶者控除廃止に伴う税収6000億円の範囲内で控除を考える (税収中立という前提)とすれば、おそらく年収600万円前後の世帯で打ち止め・消失することになるのではないか。
現在配偶者控除には世帯年収の制限はないが、上述の案では700万円以上の高所得世帯は増税になる。
これは「所得再分配機能の強化」という第2の目的を達成することの結果である。
この効果をさらに高めようとすれば、例えば38万円の所得控除の5%(所得195万円以下に適用される所得税の最低税率)である1.9万円の税額控除にす るとか、それでは多くの世帯に増税となるので、10%(所得330万円以下に適用される所得税率)の3.8万円の税額控除にすることがより現実的な案だろ う。
その場合にも所得制限は必要となる。
このように、配偶者控除を夫婦控除に見直すと、必ず損得が生じる。
負担余力のある者の負担を重くし、負担の重い者の負担を軽減することにより、格差拡大を 防ぎ、経済社会を活性化させることを目指す以上、これはいわばやむを得ない必然である。
国民全員が納得するようなマジックはない。
縦軸にOECD諸国の合計特殊出生率(TFR)を、横軸に女性の労働力率をとって、双方の関係を見ると、1980年には、女性の労働力率が高いほど出生率は低くなっており、双方は「負の相関関係」にあることがわかる。
女性が働く比率が高いほど出生率が低いという事実である。
しかし、20年後の2000年には女性の労働力率と出生率の関係は一変し、「女性の労働力率が高いほど出生率も高い」ということになった。
OECD諸国が20年間で、双方の関係を逆転させたにもかかわらず、わが国は女性労働力率は上昇したが、出生率は低下したのである。
今後は、国・会社・家庭の3つがスクラムを組んで、女性の労働力率を上げながら出生率の向上を目指すことが必要だ。
そのための構造改革の手始めが配偶者控除の見直しだ。
そしてこのような所得控除の改革は、今後も続いていくものと考えられる。(森信茂樹/中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員)