【倉琉ヨシーデの独り言】


831   倉琉ヨシーデの不安定日記


    6月10日


   小説

  ◉ 「走れエイト!」71


だけど不思議に思った真寿美は

玉木にひとつ聞いてみた。


「私 人見知りで

 あんまり人と

 付き合いがないんですけど

 ある人って誰ですか?」


真寿美は普通に疑問をぶつけた。


「高橋という人間ですけど

 いつも一緒に稽古してるって

 言ってましたけど

 知ってますかねぇ。」


玉木は白々しく話した。


実は玉木と真寿美が会うのは

初めてではなかった。


真寿美が直樹を助けに行った時に

玉木もしっかりとそこにいたが

玉木はあんまり覚えていなかった。


「ああ 高橋君って

 いつも一緒に稽古してる

 あの高橋君ですよね。」


真寿美は稽古してる仲間だと言ったが

それほど中は良くなかった。


「あの~ 

 今度 私がここの支部を

 任して貰うから

 ここで一緒に稽古しませんか?」


どうやら

この支部は真寿美が

仕切るようになったみたいだ。


「ええ いいんですか。


 ぜひお願いしたいです。」


玉木はここぞとばかりにお願いした。


「私が支部長を継いで

 ここの支部長の桐生さんが

 当分 私と交代して

 本部の師範代をやってもらいます。」


なぜか青龍支部は真寿美が

支部長を当分やるようになったようだ。


醍醐の企みは少しズレたようだが

用意した企ては

だいたい当たったようだった。


《地井に頼んどいて良かったよ》


醍醐は

あとから聞いて

安堵してたみたいだった。


実は稽古に参加している

高橋という人間は

偽名を使っている

空手おでん五人衆の

地井 鍬吉だった。


地井に入門させて

放っから

なにかの役に立たせるつもり

だったようだ。


「じゃあ早速 

 今度の稽古から

 参加していいですか?」


玉木は真寿美の

気が変わらないうちに

決めようとしていた。


「いつでもいいです。


 よろしくお願いします。」


真寿美は深々と頭を下げて

逆に玉木にお願いした。


玉木も真寿美も

お互いに

違う意味でやる気を出していた。


自分の事務所に帰った玉木は

醍醐に報告した。


「醍醐さん

 なんとかやりましたよ。」


玉木は醍醐に言われるように

忠実にできて良かった事と

上手く潜入できたことに

ほくそ笑んでいるように見えた。

 

「お前たちに任せたんだから

 しっかりやってくれよな。」


醍醐は玉木と地井にすべてを任せたが

自分が出ない事に不安も感じていた。


「大丈夫ですよ。


 万事抜かりがないですよ。


 大船に乗ったつもりで

 安心して下さい。」


玉木はかなり自信があるようだったが

醍醐は一抹の不安も

感じているようだった。


〜つづく〜