【倉琉ヨシーデの独り言】


816   倉琉ヨシーデの不安定日記


    5月26日


   小説

  ◉ 「走れエイト!」56


何日かして衛登は直樹と共に

空手の稽古で道場に来ていた。


「今日 キュウリは来るの?」


いつの間にか衛登は

桐生の事を

道場ではキュウリと呼んでいた。


「なんか 

 お兄さんのお迎えだとかで

 休みの電話があったみたいだよ。」


直樹が電話で連絡を受けて

了承したみたいだった。


「キュウリに

 お兄さんなんていたんだなあ。」


衛登はキュウリの家族構成は

まったく知らなかったようだった。


「キュウリは仕事 慣れたかなあ。」


衛登は仕事がないキュウリに

雅人を紹介したようだ。


「なんで衛登はキュウリに

 雅人さんの仕事を紹介したんだ?」


直樹は雅人を紹介した事を

納得してなかったようだ。


「普通 ヤクザをやめてたら

 何処か知らない所に

 住まなけゃならないんだけど


 雅人さんはキュウリに

 住むところを紹介して

 自分の所で雇ってくれた。


 『どうして

  昔ヤクザだった雅人さんが

  こんな事出来るんですか?』


 って聞いたら


 『俺はヤクザの頃から

  ヤクザには有りえない

  慈善活動みたいな事をやってたから

  地元の人に

  たいへん喜ばれたんだ。』


 って聞いたし


 『それが効いてるんだろうなあ。』

 とも言ってたよ。」


《雅人さんってヤクザとしては

 あまり優秀じゃあなかったかも

 知れないが

 人間としては

 素晴らしかったんだなあ。》


と衛登は思っていたようだ。


その頃 桐生は

ある刑務所の前にいた。


すると

一人の男が看守と共に

刑務所から出てきた。


そして看守に一礼して歩き出した。


ゆっくり

桐生の車にやってきた男だったが

今度は桐生が一礼した。


「おう 出迎え 有難うな。」


この出所した男は

尾高 伝次(おだか でんじ)

という名前だった。


「俺の代理 大変だったな。


 疲れたよな。」


本来 若頭は尾高伝次だったが

尾高が捕まった為に 

桐生は尾高の代わりに

若頭をやっていたみたいだった。


「あの~

 言いにくいですが

 古手川組は解散して

 組を畳んでしまいました。」


桐生は殺されるのを覚悟で

言わなければならなかった。


「なんだ それは!」


尾高はさすがに怒った感じだった。


「俺もヤクザをやめて

 カタギになりました。


 大丈夫です。

 

 カシラの言いたい事は分かりますが


 弟さんが

 まだヤクザをやっています。


 元組長から

 この車を借りてきましたから

 

 今から弟さんの組に行きますので

 それからは

 弟さんと話し合って下さい。」


桐生はだいたいの事は話したが

納得できないだろうなあ

と思いながら話していた。


〜つづく〜