【倉琉ヨシーデの独り言】


799   倉琉ヨシーデの不安定日記


    5月09日


   小説

  ◉ 「走れエイト!」39


いよいよ

衛登が試合に出てきた。


《和道流の空手か。


 少しクセのある空手だな。》

 

衛登は知らないうちに

どういう相手と対戦するか

ほとんど分かっていた。


《まず 

 和道流は敵の攻撃の軌道を

 ずらすように受け流す感じがある。


 そして 受けの動作と連動し

 腰の回転から生まれる

 円運動を利用した攻撃かあ。


 力と力のぶつかり合いじゃなく

 相手の力を利用して

 その力の作用で攻撃を

 仕掛けるつもりだな。


 そうか攻防一体の技なんだ。》


衛登は

これを瞬時に頭の中で考えた。


《だとしたら

 転位・転体・転技に

 気をつけなきゃならないな。》


お互いに礼をして構えた。


相手選手は鋭い目つきで

衛登を睨んだ。


衛登は構えるやいなや

前蹴りを腹部に出して

その脚を降ろさないで

頭に回し蹴りを出し

見事にヒットした。


あまりの技の早さに

受けを取る暇もなく相手は倒れた。


「えっ すごい! 早い!」

 

電光石火の早業というのは

こういう事で

雅人も直樹も口があんぐりだった。


衛登はあっさり勝った。


なんなく勝ったように

見えた衛登だったが

試合から帰ってきて

ポツリと言った言葉が意外だった。


「ダメだった。」


「え!


 あんなにあっさり勝ったじゃん。


 なにがダメだったんだ。」


衛登が呟いた言葉に直樹も

驚いたようだった。


「いつもなら

 いいかも知れないが

 まったく修行の成果が出ていない。


 時間がかかりすぎだ。


 もう少し早く倒せたはずだ。」


衛登なりのこだわりが

かなりあるようだった。


「お前 本当に凄いけどなあ。


 でも 納得いかないかあ。」


直樹は衛登の気持ちを察して

当たり障りなく接した。


《そういえば衛登は

 護身術もかなりのものだったなあ。


 よく研究してたみたいで

 冬にマフラーしてると

 『それ自殺行為だよ。』

 とか言って

 うざがられてたよなあ。


 でも護身術知ってる人に聞いたら

 相手に首を絞められるから

 かなり危険だと言ってたから

 衛登 凄いなあって

 改めて思ったよ。


 まあ俺だったら

 逃げ足速くなるように

 足鍛えるけどなあ。》


直樹は こんな事もあったなあと

衛登の格闘技センスの凄さを

思い出していた。


「とにかく次も頑張れよ。」


直樹は衛登の肩を軽く叩いて

エールを送った。


〜つづく〜