【倉琉ヨシーデの独り言】


776   倉琉ヨシーデ不安定日記


    4月16日


   小説

  ◉ 「走れエイト!」16


あまりに興味深かったので

話に夢中になりすぎたが

直樹は稽古中だということを

すっかり忘れていた。


われに返った直樹は

無駄話だったなと反省して

すぐに稽古に戻った。


ここにはサンドバッグが三つあるが

生徒が三列に分かれてサンドバッグを

叩いていると衛登が突然

叩いている人の顔を覗き込んだ。


「あれ〜 あんたは!」


衛登が不思議がったのも当然だ。


「あんたは権田権之助か!」


なんと

そこにいるのは権田権之助だったのだ。


「バレましたか!


 バレないようにやってたんですけど

 申し訳ありませんでした。


 ほんとは権田権之助という

 名前じゃないんです。」


権田権之助という名前は

自分の名前じゃないと否定した。


「私のほんとの名前は

 木村 知里(きむら ちさと)

 といいます。


 権田権之助というのは

 自分で考えた名前で強そうだから

 これでいいかなと思ってつけました。」


権田権之助は いや木村知里は

すごく丁寧な言い方になっていた。


「もともと木村知里という名前は

 女の子の名前みたいで

 嫌だったんです。


 それにあだ名が木村知里で

 【キムチ】だったんです。


 それでなんかないかと思って

 権田権之助という名前をつけました。


 すいませんでした。 


 長くなりましたが

 お願いです。

 入門を許してもらえますか?」


木村知里は頭を下げて入門を願い出た。


「なんで俺のところに入門したいの?」


衛登はこんなにガタイがいいのに

俺に入門したい意味が分からなかった。


「あの中河さんと手合わせした時に

 簡単にやられて

 こんなに強い人が世の中に

 いるんだと思って

 憧れに近いモノが生まれました。


 ぜひ入門したいです。


 お願いします。」


なんだかわからないが

木村知里に言われたら

【ウン】

というしかなかったような感じだった。


「まあ どっちみち

 もう入ってやってるんだから

 頑張んなよ。」


衛登は頑張れと木村知里に

一応エールを送った形になった。


「そうだ 

 これからキムチって呼ぶから

 それだけは許してね。」


衛登は呼びやすい

キムチを選択したのだけは

許してもらったようだ。


それに衛登には

もっと驚くことが待っていた。


〜つづく〜