上野先生,勝手に死なれちゃ困ります | 女王様のブログ

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この著書は,60代の上野千鶴子さん(東大名誉教授)と20代の社会学者,古市憲寿さん(東大院生)の対談を,文章に起こしたものだ。

20代だけでなく,これから老後を迎える人全員に大変参考となる本だ。


大学を卒業して,直ぐに就職した20代前半の私は,両親が健康であったということもあって,親の介護という言葉にピンとこなかった。それと同様に,親から財産を贈与してもらおうという頭もなかったし,親は親でどうにか自分たちでやっていってくれるだろうという意識があった。兄弟が近所に住んでいるということもあって,万が一,両親(遠方)に何かあったとしても,兄弟がどうにかしてくれるだろうという期待があったからだ。


著書の中で,古市さんが「親の介護は勘弁だけれども,親が築いた財産は欲しい。」と述べていることは,率直な本音で分りやすい。

20代の頃の私は,親の財産は親の築いたものであり,私のものでないという意識があったから,そのような考えすら浮かばなかったし,年を重ねた今も浮かばない。そこは今の20代の古市さんの考えと異なっていた。


周りを見渡してみれば,未だに結婚をしていない両親と同居の同世代の独身者は,少なくないのは確かである。しかし,彼ら,彼女らはそれを望んでしているようにも思えない。相手がいれば結婚したいだろうし,良い仕事につけたら独立して生きていきたいと考えてはいると思う。


私は学業を一通り終えた後,運よく仕事に就けたことと,兄弟の中で,上と下に挟まれて生まれ育ったこともあり,経済的にも精神的にも親から自立したのが早かったように思う。


今までは,両親の介護など考えなくてもどうにかやってこれたのだが,たまに実家に帰った時の父母の衰えを肌で感じた時や,親しくしている友人たちの親が病気になり介護をしながら仕事を続けている姿を目にすることがあり,いつか自分の身に起こりうるであろうこととして考えるようになった。


私には91歳になる祖母(遠方に住むが両親よりは近い)が居て,近所に住む伯父が祖母の面倒を見ている。順番からいえば,祖母が先となるだろう。

私が祖母の介護に関わらなくていいのは,誰かの支援をうけているからだ。祖母は,ありがたいことに病気することもなく健康でいるため,施設にお世話になることなく老後を暮らしている。


定職のない独身者の場合は,自分の老後が心配になり,

ある程度安定した暮らしが出来ている人は,自分の老後のことよりも親の老後が差し迫った課題になると感じる。


自分の生活もままならない状況であれば,20・30代であれ,それ以上の年代であれ,親の介護など眼中にないのではなかろうか。

多分ぼんやりと分っていたとしても,身に迫るまで分らないと感じる。


著書の中で,上野先生が「親が死ぬのが怖いか?」と古市さんに聞いた時,

古市君は「もちろん怖いです。」と答えた。

精神科医の香山リカさんも,親が亡くなるのが怖いとよく述べるらしく,上野先生はそれは全然理解できないと述べる。


上野先生が,「親が亡くなるのが怖い」という感覚が理解できないと述べているのを,私は理解出来る。悲しいことではあるけれども,それが怖いことなのかと言えば,どちらかと言えば私は怖くない。

もちろん,古市さんが怖いと思う気持ちも理解できる。最初から親が亡くなることが怖くない人なんかいないと私は思う。

特に,まだ自立できていない人の場合,親に庇護してもらうしか生きる方法がなければ,親が亡くなれば自分のパトロンを失うわけで,自分の生活が困窮することになるからだ。

古市さんは親が元気な限りは死なれるのは怖いと述べるのだけれども,病気になってしまったらいいと思う方がむしろ随分エゴイスティクな感じがする。古市さんの考えは,基準が全部自分に置かれている。本当に親の立場を考えれば,親が死んだ後,子供が悲しみのあまり,その後の生活に支障をきたすような生き方をした方がよっぽど親不孝だ。

親が亡くなることの心の準備は,自分自身を自立させるしかない。

「私はこのように生きていきたい=私はこのように死にたい」 という人生観・死生観が確立していない状況で,死というものは恐怖以外にない。


「この人が居なくても私は大丈夫。この人なしでも生きていける。」と思わせるように子供を育てていくのが,本当の親としての務めなのだと先生は述べる。


団塊世代の子育ては,自分たちが出来なかったことを子供たちに託し,子供達を甘やかせ,困難からは遠ざけ,大変なことをさせずにおき失敗した。

何時までも親のそばにいさせて,自立できないようにしてしまうことが,子供にとってどんなに不幸なことかと,先生は述べられる。


時に,自分の老後のために子供をもうける人がいるけれども,それは親のエゴである。本当に子供の立場を考えれば,子供を親に縛り付けるような生き方をさせるのではなく,自立させ,親から自由にさせてあげることだと。そして家族の介護はできるだけ子供にも関わらせて,「人が老いるとは,死ぬとはどういうことなのか。」ということを身近で体験させることが大事だと述べられている。そこは私自身も実行したい。



(本文から)


上野:団塊世代の人々が子育てに甘いのは,子供の為ではなく,親が一生子供の庇護者であることができるという考えから。

つまり子供の自立を期待しないから。団塊世代は本当に子育てに失敗しましたね。


古市:いや,失敗かどうかはわからないじゃないですか。


上野:親がさっさと資産残して死んでくれたらいいけど。

そうしたらその資産を食いつぶして一生子供のままで生きられるかもしれない。

でも,親は弱者になるうえに,なかなか死にませんからね。

そして一人前になれなかった子供を残して死ねない,って思えば,子育ては失敗。人は産まれた順番に死ぬもんです。

この子は私がいなくてもちゃんと生きていけるから,安心して死ねる,というのが親の幸福です。