75. 水道の復活 | 憂さ憂さうさぎ

憂さ憂さうさぎ

世の中は憂さだらけ!
はき出す場所のない憂さを、ここで晴らしてみましょうか。

3月29日。

今日は水道の蛇口から水が出るようになった。

そもそも、蛇口というのはそのためについているのだが・・・。

今日から彼らは、自分の役割を果たす事が出来るのだ。

『蛇口諸君!がんばってくれたまえ。』

このマンションの屋上には給水槽がある。

地震の時、その給水槽の底付近に穴があき、そのために今日まで

水道が使えなかったのだ。

そういえば地震直後、自分は玄関の扉を開けたまましばらく外の様子を窺っていた。

その時どこか近くで、水の流れる音が聞こえていたな。

とりあえず水道から水が出るようになったものの、水質検査が終わるまでは

飲まないようにとの事。

『煮沸すれば飲めるんじゃ・・・。』

とも思ったが、こんな時に水にあたって体調を崩す訳にもいかないので、

一応大人しく言う事を聞いていこう。

夕方、「ピンポーン」チャイムの音。

居間でテレビを見ていたのだが、慌てて玄関へ。

チャイムを聞いてからまだ数秒しか経っていないと思ったが、「開けますよー」

の声とともに玄関の扉が突然ガバッと開き、マンションの管理人が顔を出した。

こちらの顔を見ると、少々焦った様子。

っていうか、こっちがびっくりだ。

『そういえば鍵は閉めていたが、地震の時にすぐ扉を開けられるようにと、チェーン

を外したままだったな。』

実際少々大きな余震の時、玄関の扉を開けようとしてチェーンに手間取った事もあった。

『またチェーンは掛けておくか。』

管理人は、温水器のブレーカーを上げに来たそうだ。

「温水器は夜間電力でお湯を沸かすから、明日からはお風呂入れるよ。」

そう上機嫌で言い残し、管理人は去って行った。

・・・数時間後。

興味半分で、お湯側の蛇口をひねってみる。

『あれ、お湯どころか水すら一滴も出てこないんですけど・・・。』

管理人の姿は、既にマンションから消えていた。