発達障害者支援会社「Kaien」社長 鈴木慶太さんのお話 | 誰もが違うということを前提とした教育にしていこう!

誰もが違うということを前提とした教育にしていこう!

主に特別支援教育、インクルーシブ教育、ASD、ADHD、LD等について書いていましたが、社会全体が大きく変わってきており、特定した話だけでは答えのない答えを導き出せない時代がやってきたと感じています。そのため何でも思いつくままに書いています。

発達障害者支援会社「Kaien」社長 鈴木慶太さんのすばらしいお話が「NHK解説委員室 解説アーカイブス」に出ています。皆さん、読んでみてください。発達障害の人達の就労がなぜ困難になるのかがよく分かります。

 わたしは3年ほど前に、発達障害、強みを活かす、そして仕事をする。この3つの輪が重なる領域で、事業を展開する会社を立ち上げました。具体的には、大人の発達障害の方向けの職業訓練や企業への人材紹介。発達に凸凹があるお子さんへの基礎学力支援やお仕事体験のセッションの運営などです。


 発達障害は医療関係者や福祉関係者にすら、多様でわかりづらいと言われています。今日は、発達障害の子どもを持つ一人の親として、また発達障害に関する事業をゼロから立ち上げた職業人として、発達障害と現代の社会、特に雇用の問題について、論じていきたいと思います。

 そもそも発達障害とは何なのか?簡単に言うと脳の働きの違いです。男性と女性の脳が違うのと同じように、発達障害の人たちはそれ以外の、いわゆる健常者の脳と、若干ですが違う作り、働きをしていると思われています。この違いによって、客観的に物事を見ることが苦手で空気がよめないと言われてしまったり、臨機応変に対応することが難しくてドン臭いと言われたり、常に否定的に物事を考えて暗いと言われてしまったり、しています。

 発達障害の特性が弱みとして出るのが、コミュニケーションの場面です。現代日本の職場環境では、上司や同僚、あるいはお客様の気持ちや立場を考えながら、その場に相応しい発言、行動を瞬時にしていく能力が強く求められます。

 これは当社がまとめた職場での発達障害の弱みリストです。すべての方がこういった弱みがあるわけではないですが、同時に仕事をすすめるのが苦手、優先順位がなかなかつけられない、新しい人や環境に臨機応変に対応や適応が出来ない、などが上げられます。

 発達障害の人たちは人口の2%とも6%とも言われ、十数年前の10倍ぐらいになったという人もいます。しかし、私は発達障害の人たちが増えたわけではなく、世の中が大きく急速に変容したために、発達障害の特性を持った人たちがあらわになってきたのだと思います。別の言い方をすると、社会が高速化し、ルールが多様になり、ものからサービスへの経済に変化する中で、取り残されてしまっているともいえます。今の日本の職場は発達障害の人たちに苦手な要素の塊になってしまっているわけです。

 ただ、こうした「弱み」としか捉えられない特性が、環境によっては「強み」にもなることを示した会社がデンマークにあります。デンマークのあるIT企業は、発達障害の人の、ルール通りに行う真面目さ、嘘をつきにくい特性、を活用して、ソフトウェアのバグ探し、つまり間違え探しを事業として行なっています。

 この逆転の発想を頭に入れた上で、先ほどのリストを見てみましょう。すると、職場における発達障害の弱みとして紹介した点は、実は職種によっては、一つのことに集中できる力だったり、ルールや指示をきちんと守る生真面目さだったり、丁寧慎重に作業をする力だったり、というようにプラスに活かせる事がわかります。

 発達障害の特性が変わりにくいパズルのピースならば、そのピースを無理やり合わない職場に当てはめるのではなく、会う職場を探していけばよいというアプローチです。ピースがハマる職種は、作業手順がはっきり見える下流工程・後工程の作業というのも最近分かって来ました。そこで当社では、職場に近い環境を設定した職業訓練を行い、個々人が、特性の弱みではなく強みを活かせる仕事を探していっています。極端な言い方になりますが、障害者として配慮を求めるのではなく、強みを活かせる戦力として企業にアピールしていくことを目指しています。

 具体例として、日本でこの特性を上手に活用し、成功している2つの職場をご紹介します。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービスの会社が、障がい者の方々が最大限能力を活かして働けるように立ち上げた会社です。およそ半年間で20人以上の発達障害者を雇い、多くは人事、総務関連の業務で、各種申請内容の確認やデータ管理をしています。また社内外で収集した情報、アンケート資料、社内業務書類などの紙データのデータベース化といった業務もあり、数値的な分析が優れた人は端末およびWebを使用したコンテンツのチェックといった仕事も任されています。仕事の堅実さと質の高さが認められ、開設後半年で関連会社から様々な仕事が任されるまでに頼られる存在になってきています。

 もう1社はアパレル・飲食・生活雑貨などの多様なブランドを扱う会社の事例です。こちらでは、社内のイントラネットの管理をしたり、画像編集ソフトを使って商品の写真を加工したり、社内のセミナーの内容を文字起こししてまとめる作業を、発達障害の人たちが行なっています。ここでも10人以上のスタッフに、請け負えないほどの業務が依頼されるほど、社内での評価が高まってきているといいます。

 こうした事例を見ると、職場においてなにか特別な配慮や環境整備が必要と思われる方もいるかも知れません。障害者を受け入れるには医療や福祉の専門性が必要ではないかという懸念です。しかし発達障害に限っては、いつもではありませんが、福祉よりもビジネスの考え方が有効であることが多いのです。

 発達障害の人たちには、数十年も前から王道といえる支援法があります。それは、見える化、構造化、目的・目標の明確化です。実はこうした支援技術は福祉の専売特許ではありません。ビジネスでは当たり前のように行わないといけない部分です。というのも、営利の世界での良い上司は、部下に指示を出すときにも、口頭指示だけではなく文書にまとめたり、グラフや画像も取り入れながらわかりやすく伝えるスキルを持っています。またスケジュール管理についても誤解がないようにみんなで視覚的に共有するルールを作ることができます。これが発達障害の人が求める情報整理にとても有効なのです。

 指示を明確にせず、気持ちばかりくみとろうとして、曖昧な状態なままで部下を混乱させる上司・職場が多いのが現代日本の大きな課題です。日本の企業を強くするためには、さまざまな方策があるとは思いますが、発達障害の人を部下に持つ経験は、上司に色々と気づきを与えてくれると思っています。もっと言うと、視覚化や構造化、目的・目標の明確化こそがユニバーサルマネジメントなのです。発達障害の人たちへの管理方法は、発達障害の人たちにやさしいだけでなく、他の健常者といわれる人にもやさしい管理方法ということです。

 現在の資本主義から追い出されがちの発達障害の人たち。その人たちをまた職場に呼び戻す力は、実は営利組織の常識だというのは、皮肉にも感じますが、希望にも感じられます。発達障害の人たちの雇用が進み、会社組織がより強くなる。お互いに利益のある関係を、当社ではビジネスを通じて、より多く作って行きたいと思います。
[NHK解説委員室 解説アーカイブス]