【陰暦2033年問題】暦文協に問い合わせた結果 | カタギリノエンレイソウ広報

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日本において「旧暦」あるいは「陰暦」といえば太陰太陽暦、通常は天保暦を指すが、定気法の二十四節気が天保暦の導入とともに使われて以来、西暦2033年 (令和15年)から翌年にかけて、初めて例外的状況が出現する。二十四節気の「中気」が2つ含まれる陰暦月が出現しうるため、天保暦では「閏月は中気が入らない月に設ける」という基本原則のもとで、「冬至の月が11月、春分の月が2月、夏至の月が5月、秋分の月が8月となるように調整する」という方式がとられていたが、2033年においては、秋分の月と冬至の月に関してそのような調整が効かず、冬至の月と2034年の春分の月の間において「中気が入らない陰暦月」が2つ、「中気が2つ含まれる陰暦月」を挟む形で含まれていることが知られている (陰暦2033年問題、旧暦2033年問題、2033年旧暦閏月問題)。

この陰暦2033年問題について日本カレンダー暦文化振興協会 (暦文協)に問い合わせたところ、冬至優先で閏11月を置く案 (解決案2)を推奨する方針を変更する予定は「今のところ」ないという回答がきました (2020年5月30日付)。混乱について配慮し平成27年(2015)に調査したところでは、閏11月案 (解決案2)は出版済みのほとんど全ての万年暦とも整合性が取れているとして暦文協が自ら推奨したものと考えられます。ただ、置閏法 (月名決定方式)を決定した訳ではないので、ご意見は大変興味深いとのことです。

理科年表には「伝統的七夕」(陰暦7月7日に相当)と「中秋の名月」(陰暦8月15日に相当)の日付が毎年 (2001年版から)具体的に示されているが、陰暦月日の情報が記載されていないため (「暦象年表」や「暦要項」も同様)、基本的に「伝統的七夕」は「処暑 (太陽黄経150°)の瞬間を含む日かそれより前で、処暑に最も近い朔の瞬間を含む日」から数えて7日目、「中秋の名月」は「秋分 (太陽黄経180°)の瞬間を含む日かそれより前で、秋分に最も近い朔の瞬間を含む日」から数えて15日目とする形になっているようである (伝統的七夕方式)。特に「中秋の名月」の日については、天保暦のルールに基づいた「陰暦8月15日」に一致している。このような方式に基づくと、2033年の「中秋の名月」の日付は「10月7日」になるはずである (2033年9月23日には秋分と朔が同時に含まれるため)。にもかかわらず、暦文協が2033年の「中秋の名月」の日が「陰暦8月15日」にならない案を推奨するとはどういうことか。「中秋の名月」とは、本来、陰暦8月15日の夕方の空に昇ってくる月のことを指すが、理科年表で採用されている方式による「中秋の名月」の日が「陰暦8月」に含まれるように陰暦月名を調整する案 (解決案1、閏7月案)を推奨しないことには、どうも納得がいかない!また暦文協は「国立天文台が困ることにはならない」と判断しているが、冬至優先・閏11月案推奨をかたくなに貫き通す暦文協の方針こそ、国立天文台に歯向かう態度ではないか!

国立天文台は「天象に関係ある国民的行事中最も主要なるもの」として「中秋の名月」の具体的な日付を公式的に提示しています。その定義についてより正確にいえば、日本の中央標準時による、秋分の月 (秋分を含む陰暦月)における「朔から数えた15日目」、つまり「秋分 (太陽黄経180°)の瞬間を含む日かそれより前で、秋分に最も近い朔の瞬間を含む日」から数えて15日目であり、「秋分の月を陰暦8月とする」という天保暦のルールに整合する形となっています。ただ、現代の日本においては、太陰太陽暦 (陰暦、旧暦、天保暦)がもはや公的には使われていないため、その暦を用いて定義するわけにはいかないとして、陰暦月名を別途決めることなしに、「特定の二十四節気の瞬間を含む日」と「朔の瞬間を含む日」を使って直接に定義する形となっているわけです。したがって、陰暦2033年問題に関しては公的な機関が解決に直接関与するわけではありませんが、陰暦8月15日に相当する「中秋の名月」の日付を公式的に提示していることによって、現代天文学による朔や二十四節気の日取りを基に暦 (陰暦月日・六曜など)を構築している民間のカレンダー製作者に少なからず影響を与えているといえます。国立天文台が2033年の「中秋の名月」の日をどうするかについては、実質的には陰暦2033年問題の解決に関する部分的な関与でもあり、天保暦のルール通り「2033年10月7日」となれば陰暦月名の配当は「7月 (2033年)→閏7月→8月→9月→10月→11月→12月→1月 (2034年)→2月」(解決案1)で完全に決まり、冬至優先で「2033年9月8日」となれば陰暦月名の配当は閏11月案 (解決案2)と閏1月案 (解決案3)に絞られる (大寒と雨水を同時に含んだ陰暦月があるため、この場合は閏11月と閏1月のどちらかまでは確定しない)ことになるといえます。また、「冬至 = 陰暦11月」優先で中秋の名月が「2033年9月8日」となった場合には、時憲暦ルールと同様の、冬至の月と春分の月の間において中気が入らない最初の陰暦月を閏月とする閏11月案 (解決案2)をとることが有力視されます。いずれにせよ、陰暦2033年問題の解決については、「冬至 = 陰暦11月」優先にこだわらず、国立天文台による2033年の「中秋の名月」の日付の確定を待ちつつ、その「中秋の名月」の日が「陰暦8月」に含まれるように陰暦月名そのものを調整することが現実的であると、わたくしは考えています。ただそれでいて、2033年だけ「中秋の名月」の日が2回 (両方祝う)、なんていうことは避けたいところです…

さらに「暦文協でも旧暦を公式に決定している訳ではなく、推奨をしており、実際の暦がどう掲載されるかは、制作者によります」という回答がきていますが、わたくし、カタギリノエンレイソウ広報の管理者の持論としては、陰暦月名の配当 (閏月の置き方)の不統一なんか起きたら困ると考えています。ここで陰暦月名の決定方法 (置閏法、月名決定方式)を事前に決定しておかないと、陰暦月日や六曜などの掲載内容がカレンダーの製作者ごとに異なるものとなってしまい、伝統的な行事の催行をめぐってトラブルを起こす原因にもなります。そして、多くのカレンダー製作業者が納得できるようなルールを作っていただかないと、2019年 (平成31年)のカレンダーにおける元号の記載と同様、2033年 (令和15年)や2034年 (令和16年)のカレンダーに関しては、多くの業者が陰暦月日や六曜の記載を見送るような事態も予想されます。

わたくしの持論としては、新しい月名決定方式として望ましい要件は、「既存との整合性が保持されていること」(可能な限り二至・二分が本月に含まれるように配慮)、「月名の決定に矛盾性や不確定性がないこと」(欠月及び余分な閏月の発生を回避)、「理科年表で採用されている方式 (いわゆる伝統的七夕方式)による『中秋の名月』の日を含む陰暦月の月名が例外なく『陰暦8月』になること」(「秋分 = 陰暦8月」優先)の3点にあります。なお、「処暑と秋分を同時に含んだ陰暦月」の発生や、処暑の月が夏至の月の翌月に当たるような事象も起こりうるため、国立天文台による「伝統的七夕」の定義は、月名の決定に関してはあまり参考にはなりません (陰暦月名の調整の都合上「伝統的七夕」の日が必ずしも「陰暦7月7日」になるとは限らず、「陰暦6月7日」や「陰暦8月7日」になることがありうる)。


外部リンク
暦計算 Online - 陰暦・節気計算

[陰暦2033年問題の概要 (2020年5月7日の記事)]
[新しい月名決定方式 (2020年5月7日の記事)]
[新しい月名決定方式 (画像解説版)]