★~美雪…その1話


 京都の繁華街の中心、四条河原町の近くの丸高デバートの従業員出入り口で美雪は正也の出てくるのを待った。美雪は高校を卒業してこのデパートに就職して二年目の春で二十歳、中肉中背で肌はテニスが趣味で小麦色に焼けてはいるが元々そう白くはない。目元がキリッとしているがエレベータガールのような華やかさはないが決して不美人でもなかった。
 笑うと高校生の匂いがまだ残っている美雪と正也の仲はデパートでは知らない人がいないほどオープンに付き合い同僚の女の子も多少の妬みもあるもののこの二人を暖かく見守っていた。
 正也は京都大学法学部出身の28歳で丸高デパートのエリートコースの人事部配属されこの春、同期トップで課長補佐に抜擢されていた。比叡山高校時代は陸上部のキャップテン、京大ではテニス部に高山正也ありとまで言われたスポーツマンで、その上背が高くて超ハンサム。どちらかと言うとこのカップルは少々不似合いと噂するデパート雀の声もあるがこの二人に聞こえてこなかった。
 正也が通用門から出てくるのを確認すると美雪は向かいの路地に隠れ後ろから「ワッ!」と驚かしてはいるが、これも毎度のことで正也は驚いてはくれない。美雪は背の高い正也にぶら下がるように手を組み四条通りを東へ祇園のスナックへと歩いた。
 この見栄えのする青年を美雪は入社の面接で一目惚れをしていた。入社してからも食堂や廊下ですれ違っても口が聞けないほど緊張していた、これは他のデパートガールも同じで特に結婚適齢期の23歳から上の子は目の色を変えていた。丸高デパートでは、お茶やいけばな、そしてスポーツクラブがあり、会社も人数に応じて補助金を出していた。美雪は正也がテニス部のコーチだと知るとその日の内に入部していた。
 それから一年、他の企業との試合の帰り支度をしていると正也が、
「内田君(美雪の苗字)の家はどっち方向?」
「はい、桂西口です」と答えると正也は、美雪のスポーツバックを持って一人で前を歩きだした。
 テニスの試合といっても美雪はボール拾いで、部の練習でもまだ一度も相手にしてもらえなかった。それが今日は正也のスポーツカーで送ってくれるというのだから美雪はハイテンションを通り越してうつむいて「はい」としか言えなかった。
「内田君、ファミレスでも付き合わない」
「はい…」
「軽く一杯飲んでいく?」
「はい…」
「少し酔ったから散歩する?」
「はい…」
「悪いけど、腕を組んでくれる?」
「はい…」
「これからも付き合ってくれる?」
「はい…」
「ラブホは初めて?」
「はい…」
「少し休んでいこうか?」
「はい…」
 こうしてあれよあれよという間に美雪は正也に処女を与えていた。美雪は心も身体も完全処女で女性にはもてるが処女には縁がなかった正也を感動させていた。
 
 「美雪、今日はどこへ行こうか?」
正也は明日から東京本店に長期主張する。この秋に丸高デパート新宿店オープンのための社員、パート募集の準備のために全国から有能な人事部員社員が集められ一ヶ月の予定だった。美雪は今夜は正也と静かに話がしたい、カラオケなどない店が良いと少し高いが京都ホテルのラウンジをねだった。
 四条河原町の近く、丸高デパートの前に素敵なラブホテルがあり、最近の二人はここを良く利用している。正也のセックスは美雪の身体を丁寧に愛撫することからはじまる。美雪も正也とのセックスが好きで真剣に感じることに努力しているが山登りで言えば七合目か八合目でいつも終わる気がしていた。さりとて美雪はまだその頂上には登ったことがないが、なんとなく不満であったがそれはまだ年も若いし経験も少ない、正也と結婚すれば経験できるであろうと内心楽しみにしていた。
 ホテルから少し歩くとタクシー乗場がある。正也は滋賀県の大津、美雪は桂と正反対のためにこのタクシー乗場で軽いキスをしていつも別れている。美雪は一週間の仕事の疲れとセックスの疲れと酒の酔いがドット出てきた。
 美雪はタクシーの運転手に「桂西口を南、線路沿いに出て、ローソンの前」と告げて静かに目を閉じたのもつかのまで運転手に起こされて料金2500円を支払おうとバックの中の財布を探したが、酔いと寝起きで頭が回らない、
「運転手さん、スイマセン、上に上がってお金を取ってきます、4階の一番左端です」と言ってフラフラしながらマンションの中に消えた。
 運転手はローソンの上のマンションを見上げて4階の左端の部屋に電気が点くのを確認したが、15分待っても降りてこなかった。運転手はタクシーのエンジンを切り、4階までエレベーターで上がりその部屋を軽くノックするが返事はない。ノブを回すとドアが開いた、1DKの部屋で部屋に入ればすぐにベッドがある。そのベッドに女は仰向けに寝ていた。
 ベテランドライバーのこの男は過去にもこのような経験をもってはいるが、これは男は少なく女に多い、女であっても水商売のおばはんと相場がきまっていた。ひどい話になるとタクシー代を踏み倒して欲求不満を解消させる作戦をする女もいる。もっとひどいのになるとあくる日には高級外車がタクシー会社に横付けされて「俺の女房が世話になって」という美人局の脅迫もあるから運転手も用心しなければならない。
 しかし、今日は20歳そこそこで可愛い顔をしてスヤスヤ寝ている。運転手はタクシーのキーにつけていたキーホルダー型の豆ライトを口にくわえ、部屋の照明のスイッチを切った。

 スカートのファスナーを下に下げスカートを腹の上にまくりあげた。
                             (つづく)


★~ケータイ小説・フォトライター

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