引き出し① | 稲野川ジョン子の身も毛もよだる心霊話

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大学三回生の夏だった。
早々にその年の大学における全講義不受講を決めてしまった俺は、バイトのない日には暇を持て余していた。特に意味もなく広辞苑を一ページ目から半分くらいまで読破してしまったほどだ。全部をやりとげないあたりがまた俺らしい。
ともかくそんな屈折した毎日に悶々としていたある日、知り合いから呼び出しを受けた。
かつて、都市伝説などを語らう地元の噂系フォーラムに出入りしていた時に出会った、音響というハンドルネームの少女だ。
このあいだまで別の名前でネット上にいたらしいが、「音響」時代を知る俺と二年振りに再会してからなにか思う所があったらしく、またそのハンドルネームを名乗っているようだった。
いったい何の用だと訝しく思う気持ちもあったが、黙って座っていると周囲の男どもがチラチラ視線を向けてくる程度には可愛らしい容姿をしている彼女なので、悪い気はしない。
ただその視線の半分はゴシック調で固めたそのファッションに向けられる好奇の目であったかもしれないのだが。
指定されたカレー屋で待ち合わせ、少し遅れてやってきた彼女ととりとめもない話をする。
カレー屋陰謀論という頭の痛くなりそうな理論を淡々と語る彼女に、「カレーを食べた後に犯罪を犯す人が多いというのは、単なる蓋然性の問題。それだけ食される機会の多い料理だということ」と反論すると、「蓋然性ってなに」と聞いてくる。
「蓋然性ってのはつまり、ネジにたとえるなら、その絶対量からしてバギーちゃんのかけらというよりはポセイドンの部品なんじゃないかなってことだ」と言うと、「バギーちゃんってだれ」と返される。
「ドラえもんの大長編って見たことない?」と聞くと、「ない」
そこで会話が終わった。
歳は確か俺の四つ下のはずだ。これもジェネレーションギャップなのか。

俺もリアルタイムではないが、普通ドラえもんの映画版はビデオや漫画で見ているのものだと思い込んでいた。
なかなか本題に入らない。イライラしてくる。
そう言えば、いまさらのようだが、この女は信用ならない。過去に、騙されて恐ろしい目にあったことが一度ならずあったからだ。
デートしよう、などというメールの文面は、こんにちは程度の意味に取るべきだろう。
心理的な壁を作ろうと、少し身を引いた時だった。急に音響が立ち上がり、「こっちこっち」と入り口に向かって手を振った。
黒い。
俺には理解できない黒いファッションに身を包んだ十六、七歳と思しき少女がやってきた。音響と同質の格好だが、もっと黒い。
そしてあろうことか髪は銀色。薄っすらパープルの口紅。そしてエメラルドグリーンのカラーコンタクト。
少女は重そうなスカートを翻して俺の前の席についた。
「るりちゃん。なんかこむづかしい字を書く」
少女は紹介に軽く頭を下げてから、その音響に顔を寄せてひそひそと耳打ちをする。
「王は留まり、王は離れる、って」
音響は頷きながらそう言った。
頭の中で字を思い浮かべる。『瑠璃』か。
それが本名なのかナントカネームなのかわからないが、とりあえずこちらも会釈せざるを得ない。
「で、なにこれ」
俺の言葉に音響があっけらかんと言う。
「紹介するって言ったでしょ」
頭を抱えそうになる。
あれか、ともだちを紹介するってやつ。確かにそんな話をした覚えがあるが、俺は別の世界の人間とつきあう自信はない。なにより俺には今、特定の相手がいる。

困惑した顔を隠さない俺に、瑠璃ちゃんとやらは目をぱちぱちと瞬いて、哀しそうな表情を見せた。
もっともそれが怒っている顔だと言われたらそうとも見えてしまうだけの、微妙な変化に過ぎなかったのであるが。
「紹介するって言ったの忘れた? メチャ可愛くて困ってるともだち」
ちょっと待った。
修飾語が一つ増えてる。紹介されるのは確か、「メチャ可愛いともだち」だったはずだ。
「困りごとの相談がある?」
黒いのが二人して頷く。
きた。
こんなことだろうと思った。音響は俺のオカルト道の師匠並みに、あやしいものへ首を突っ込みたがるフシがある。そしてその尻拭いをこれまでに二度してしまったのが運の尽きで、どうやら懐かれてしまったのかも知れない。
「ちゃんと言ったでしょ。可愛くてメチャ困ってるともだち紹介するって」
修飾語の順番が変わった。
猛烈に嫌な予感がする。
注文したカレーが来たので、とりあえず食べることにした。
これが本格的というやつなのか、やたら具が少なく複雑なスパイスの風味が鼻に来る。
俺は目の前で黙々とカレーを食べている二人の少女を窺う。あんな服どこで売っているのだろうか。それに、服に合わせた化粧をしているようだが、外に出るたびにこれではさぞや時間が掛かることだろう。
瑠璃と名乗る少女が、ふいにスプーンを持つ右手を止めて「迷惑ですか」という目で問いかけて来た。
はっきり「そうだ」と言えないあたり、自分で自分が嫌いになる。
それにしても、その黒ずくめの服装に白い肌、銀色の髪に緑の目と揃うとまるで人形のようだ。音響の方がまだしもファッションの枠の中で留まっている気がする。

その不思議な色の瞳を見ていて、ふいに思い出す単語があった。
『緑の目の令嬢』
なんだっけこれは。頭の中で数回繰り返す。みどりのめのれいじょう。
そうだ思い出した。モーリス・ルブランの小説、ルパンシリーズの一編だ。
怪盗アルセーヌ・ルパンが緑の目の少女に出会い、彼女の受け継ぐ莫大な遺産をめぐる事件に関わっていく話で、確か湖の底に隠された古代ローマの遺跡なんかが出てきた記憶がある。
そう言えば昔読んだ時には、頭の中で勝手に緑の目の少女のビジュアルに孫の方の『カリオストロの城』に出てくるヒロイン、クラリス姫を嵌め込んでいた。
その少女は、名前を何といっただろう。忘れてしまった。結構好きだったのに。
カレーをスプーンで掬い、スープのように啜ることしばし。
思い出した。
「オーレリーか」
ボソリと口をついて出てしまった。
音響がそれを聞いて、驚いた顔をする。
「どうして知ってるの」
その驚き様にこっちの方が驚く。
「俺がルパン読んでちゃ悪いのか」
「別に悪くはないけど」
なんなんだ、こいつ。ドラえもんの大長編は見てないくせに、ルパンシリーズは読んでるのか。確かに、別に悪くはないが。なんだか釈然としない感じだけが残った。
「で、なにがあった」
食べ終わって、水に手を伸ばす。音響が瑠璃を肘で小突く。瑠璃が音響の耳元に唇をよせてボソボソと話す。やがて音響がこちらを向く。
「瑠璃ちゃんは低血圧なのよ。で、朝起きた時にしばらく動けないんだって。その目が覚めてボーっとしてる時に、部屋で変なことが起きるんだって」
また続きを音響に耳打ちする。

「瑠璃ちゃんのベッドのそばに小さいタンスがあって、中に下着とか小物とかが入ってるんだけど、その引き出しのひとつが開いてるのね。夜寝る前には全部閉まってたはずなのに」
この「初対面の人には声を聞かせません」とでもいいたげなキャラ作りに、だんだんと苛立ってきた。格好といい、自分が普通じゃないことをそんなにアピールしたいのか。
俺の苛立ちを気にもせず、音響の通訳は続く。俺はどっちの顔を見ながら聞いていればいいのか迷いながら、交互に視線を向けた。
「あれっ? 変だなって思ってると、その開いた引き出しから何かがチラッと動くのが見えて、そこに意識を集中しているとゆっくりじわじわ、なにか白いものが中から出てくるのよ。
すぐに人間の手だってことはわかるんだけど、もちろん誰かが中に隠れちゃえるような引き出しじゃないし、指が見えて・手のひらが見えて・手首が見えて・腕が見えて・肘が無くて・ズルズルありえないくらい伸びて。でも動けなくて。目が逸らせなくて。怖くて。
それからその手が何かを掴んでまたズルズル引き出しに戻っていって、ズルって全部隠れて見えなくなったらやっと起きられるの」
デジャヴを感じた。
何故だろう。ゾクゾクした。この話は、まるで金縛中に起きるバッドトリップのようだ。もしくはただの夢か。
「それ、起きられるようになるまでは、ほんとに動けないのか? それから起きられるようになるのって、急に? そこで、開けてたはずの目が、もう一度開いたような感覚がない?」
音響が通訳する。動けないというよりは、動きたくないって感じの十倍濃縮版。起きるのは急に。そんな感覚ない。
「動きたくない」という感覚は、金縛りのパターンからは外れるようだ。金縛りはたいていの場合「動きたい」はずだ。それに入眠時幻覚の類にしても、朝の目覚めの時におこるというのはよくわからない。そんなこともあるのだろうか。覚醒時幻覚とでもいうのか?


引き出し②へ続く...



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