空へのあこがれ
フライトトレーニング
高度処理のテクニック
前回は、フォワードスリップを使った高度処理を習った.
飛行機で高度を下げる時には、いくつかの注意をしながら操作を行わなければならない.
前にも書いた通り、高度を下げる=位置エネルギーを小さくするという事なので、単純にダイブ(機首を下げて下向きに飛ぶと)すると、位置エネルギー→速度エネルギーに変換されてしまうので、速度がつき過ぎてしまい、飛行機が危険な状況に陥る可能性が出てくる(Vne:絶対最大速度・物理的最大速度を超えてはならない).
飛行中に、飛行機の高度を失わせる方法は、
1.エンジンパワーを絞り、機首を下げ、下向きに飛行する、→ ゆっくりと降下する
2.速度が上がりすぎないように空気抵抗を増やす → 少し降下率が高くなる
(具体的には)
・格納していた降着装置(脚)を下ろす(出す)
・フラップを使って空気抵抗を増やす
3.フォワードスリップを使って降下する
4.バンク角を90°近くとり、スパイラル降下(緊急降下)を行う
などの対処方がある.
1のパワーを絞り、機首を下げる(数度下向きに飛ぶということ)は、マイルドに高度を落とす方法であり、急速に高度を落としたい時には使えない。
(300〜500ft /min ほどで降下する場合など)
あまり、機首を下に向けすぎると、飛行速度が上がりすぎて、限界値を超えてしまう.
2の方法は、1の方法に空気抵抗を増やす例.降下率が大きくなる(〜800ft /minくらい)
脚を出したり、フラップを出したりする時は、POHに書かれた、これら操作の限界速度を超えていないことを確かめてから操作する(パイパーターボアローだと、車輪を下ろせる速度は120KIAS以下).
フラップをだしても良い速度は、速度計のホワイトアークの範囲の速度(Vfe)以内でなければならない.
3の方法は、先の記事で解説済み
4の方法は、飛行機を90°バンクさせ、操縦輪をグッと引き、スパイラルを描きながら、急速に高度を下げる飛行方法.この方法だと高度が下がっても速度は、殆ど変わらない.
この方法は、映画などで、戦闘機(プロペラ、ジェットどちらでも)などが、編隊飛行から翼を翻して、離脱降下する時に見られるシーンの飛び方と同じ.
スパイラル降下(緊急降下)の練習は、単発機の練習ではしないようだが(私はなかった)、双発機の練習では6,000ftから3,000ftまで、十秒ほどで降下するなど、実際に訓練をした.
本当のシチュエーションは、酸素マスクが要るような高高度から、マスクが要らなくなる高度(8,000ft程度)まで、出来るだけ短時間に降下したい場合などに用いる.
スパイラル降下も、左旋回で降りる事が多い.視野の左半分が地面で、正面に地平線が垂直に見えるという、ちょっと怖い操縦方法.
乗っている人にとっては、遠心力と釣り合わせて旋回しているので、Gが自分自身の真下に近い方向に強く(2〜3G位)感じるような操作となるので、外さえ見ていなければそれほど過激な操作には感じない(窓から外を見ると、下側の座席からは、窓全体が地面しか見えないので、ちょっと怖いかもしれない)..
この場合も、飛行機自体は、横滑りしながら斜め下に向かって飛んでいるのだが、搭乗者にとって下向きへのGを作り出すために、操縦輪をかなり強く引いている状態となる.
つまり、飛行機としては、上方向への旋回となるので、急旋回の時と同じよう(それのバンク角が強いもの)な状態となり、かなりのレートでの降下をしても速度はほとんど上がらない.
ヒトは、下向きへのGの増加には、比較的耐えられるし、それほどの違和感がないのだが、逆向き(マイナス方向)へのGの変化は、非常に不快に感じる.
なので、飛行機の操縦では、出来るだけマイナスGにならないような操作をする.
このスパイラル降下を、同じ速度で飛んでいる僚機から見ると、丁度、翼を90°バンクさせると同時に、旋回しながら斜め下後ろに離れてゆく飛び方に見える(映画や動画などで、編隊からの離脱の時の飛び方).
12年ほど前、青森県上空で、一面の雲の上を飛んでいて、降下したかった時に、直径10kmほどの雲の穴が空いていて、そこの中を降下する際には、フラップを1段下ろし、脚を出して、空気抵抗を増やし、エンジンをかなり絞って飛行速度を100KIASほどにしてサークリングしながら降下した事があった。
また、
房総半島上空で、6,000ftで北向きに飛んでいたら、ATCから急いで2,000ftまで降下を求められた.
房総半島上空は、羽田へのアプローチのコース上に当たるので、ちょうど、旅客機が10,000ftから6,000ft辺りに高度を落としてくる辺りだった.
連絡を受けた当初、すぐさま、1の方法でマイルドに500ft /minで降下を始めたのだが、右側の数キロ先を並行に飛んでいた、ANAのB777が、急にこちらに変針し出し、さらに、向こうも降下中だった.旅客機は、スポイラーで降下するので、1,000ft/min以上の大きな降下率で降下できるので、こちらの高度と近くなってしまい、こちらが降りる前に、衝突を避けるため、大急ぎで、右に変針してすれ違った事もあった。