つづきのお噺
こんばんは、稲川淳二です。
それでは、そろそろ始めましょうか。
今日は、つづきのお噺です。
皆さん、怖・楽しい時間を、楽しんで下さいね。
あっ、折角ですから、雰囲気を出すために、
部屋を真っ暗にして、楽しんで下さいね。
それでは、始めましょうか。
何も無ければいいんですが…
何があっても、知りませんからね。
それでは、怖・楽しい時間を、楽しんで下さい。
あれっ、あなたの後ろに・・・・。
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確かに、闇の中に黒々とした木々の輪郭が、見えるんですよ。
道をはさんだ反対側には、川が流れてんだ。
「あら?」
って、思った。
するとショウキュウさんが、
「それで、建物かなんか見えませんか?」
と聞いてきたんで、
「見えないね、真っ暗で。
だいたい距離感がつかめないもん」
て言ったら、
「いやー、ないですかねえ?」
って、言うんです。
で、しばらく行ったら、道の前方の左手に、なにか見えるんですよ。
「あっ、あれの事かな。
なんか見えてきたよ、建物らしいよ」
って、言うと、
「それって、もしかすると、
ガソリンスタンドと、レストランじゃありませんか?」
って、言うから、
「いや、ちょっと遠くてわかんないなぁ」
と目をこらして見ていると、
次第に、距離が近づいてきて、
どうやらそれが、彼が言うように、
ガソリンスタンドらしい造りなんですよ。
で、その隣にレストランのような建物が、あるんですよね。
でも様子からして、人が出入りしているようには見えない。
どちらも、もう永い間、
放置されたままの廃屋らしいんです。
「ああ、ここ、そうらしいよ。
でも窓や入口に、板が打ち付けてあって、
これもうだいぶ前に営業をやめてるねえ」
と言うと、隣で谷口君が、
「そうみたいですね」
と言った。
道路と廃屋の間には、細い川が流れていて、
川の上にフタをするような恰好で、
コンクリートの床が張ってあるんで、
そこから入って、廃屋の前に、軽トラックを停めるように、
谷口君に言おうとしたんですが、
「--で、それでね----」
って、ショウキュウさんが話してくるんで、
運転してる彼に、
“スピード落として”
と、手で合図したんですよ。
“そこにとめて”
って、いうふうにね。
そしたら携帯から、
「あれ!?ちょっと待って!」
て、声がして、
「えっ?あれ混線してる。
もしもし、聞こえますか?」
って、ショウキュウさんが言うから
「あぁ、聞こえてるよ」
って、答えると、
「これおかしいなぁ。
誰か、別の人の声が混線してるんですよ」
って言うから、
「いや、こっちはそんな声、聞こえないよ。
谷口君は、何もしゃべってないし、普通に聞こえてるけど。
そっちの電話が、おかしいんじゃないの?」
って、言うと、
「えぇ?いやぁ、なんかね、
声が入ってくるんですよね、もうひとり。
あれ。
聞こえてます、こっち。
聞こえてる、聞こえてる」
って、言ってるんで、私が、
「あぁ今ね、ちょうどそのガソリンスタンドとねぇ、
レストランの前、来たとこだけど---」
て、言ったら
「座長、なんか言ってるんですよ。
あれ、こいつねぇ、おかしいこと言ってる」
って、言うんですよ。
ショウキュウさん、こっちの話、聞いてないなと思ったから、
「今、建物の前だよ」
って、大きな声で言った途端、
「ダメー!座長そこやめて!
ダメー!
行って!そこから離れて!」
って、叫び声がして、
電話切れちゃったんですよ。
切れた瞬間に、停まりかけてた軽トラックが、
突然、スピードを上げて走り出したんです。
(あれ?)
と、
あっけにとられて、隣を見ると、
谷口君が真っ青な顔して、
視線を前方に向けたまま、
ハンドルを握って震えてるんですよ。
軽トラックは、夜の闇の中を、
かなりのスピードで走ってゆく----。
(これは、何かあったらしい)
というのは感じたんですが、
黙っていると彼が、
「乗ってんです。荷台乗ってます」
って。
呟くような声で言うから、
「えっ!?」
と聞き返すと
「いますよ、荷台。
荷台に乗ってますよ」
って、言うんですよ。
「なに!?」
こっちは、何の事かわからない。
と、谷口君がバックミラーを見ろというように、
「乗ってますよ。乗ってますよ」
って、言いながら、
目で合図してんですよ。
でも、バックミラーは、運転席の方を向いてるから、
よく見えないんだ。
すると後ろで、なんか気配がするんですよ。
軽トラックだから、もう、すぐうしろが荷台でしょ。
ふたりが座っている座席の、
ヘッドレストとヘッドレストの間の、
小さなリヤウィンドウから荷台がのぞける。
(ん!?)
薄い鉄板を通して、かすかな物音がしている。
自分の後ろで、何かが動いてる----。
気になるから、そっと振り向いて見ると、
リヤウィンドウがすぐ目の前にあって、
黒い闇がうつってる。
見つめていると、不意に横合いから、
ヌッ、と骨のような手が出て、思わず息をのんだ次の瞬間、
目の前に骸骨のように痩せこけた顔が、
バンッと張り付いて、
白濁した目が、運転席を覗くと、
瞬間、フッとリヤウィンドウから消えたんです。
あまりの事に言葉を失ってると、
突然頭の上で、
ドンドンドンドン
と激しく屋根が鳴った。
つづく
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如何でしたか。
何も起きなかったですか、それとも・・・・。
あれっ、あなたの後ろに・・・・。
それじゃまた、明日の夜に。