あたたかくなってきました。

 

信州伊那谷でも、春の陽気がじわじわと根雪を溶かしています。

根雪のほうは、太陽の光を反射して、溶けるのをじっと我慢している様子。

 

冬と春との、静かな力比べが続きます。

 

まだ残る雪の上に、ユスリカを見つけました。

キソガワフユユスリカ Hydrobaenus kondoi.

10.Ⅱ.2024. Ina-valley. Nagano. Japan.

 

近所の小川から発生する小さなユスリカの仲間で、その名のとおり冬に成虫が見られます。

 

場所によっては大量に発生するため、「不快害虫」などという不名誉な名前を与えられたりもします。

ですが、それは単に、人間が見て気持ち悪いというだけの話。

 

ユスリカは、野鳥や水中のいきものの食糧として、とても重要な役割を担っています。

 

このキソガワフユユスリカも、近所の野鳥たちの、冬の大切な食糧になっているのです。

 

 

 

いま、日本各地の湖や海で、水産生物の不漁が続いています。

ワカサギやシジミ、アサリやノリなど、日本の食卓になじみの深い生き物たちの減少が、クローズアップされています。

 

原因は開発や野鳥による捕食、赤潮の発生など、様々に言われています。

ですが、私がいちばん気になっているのは水系の「貧栄養化」です。

 

かつての高度成長期、日本各地で公害や環境汚染が深刻化しました。

そこで、様々な法律や処理施設が整備され、いま、日本の環境はキレイに、クリーンになったのです。

 

ところが、「クリーン」になって困った生きものたちがいました。

時に「不快害虫」とも呼ばれる、ユスリカなどの大発生する生きものたちです。

 

ユスリカを含めて、多様で「多量」な生きものたちが、生態系の中で果たす役割。

そのいちばんの役割は、ほかの生きものの「エサになること」です。

 

水に溶けて、眼には見えない豊富な栄養を、他の生きものが利用できる形に変換する。

水中の栄養を、プランクトンやボウフラが取り込み、それをワカサギやもっと大きな魚が食べる。

「アカムシ」の名で釣り餌にもされるユスリカの幼虫※

(※写真の種は釣り餌にされるアカムシユスリカとは別種)

 

栄養というバトンをつなぐ、生きものたちのリレー。

ユスリカは、その走者の、大事なひとりなのです。

 

「不快害虫」などどいう名を付けられ、時に、駆除の対象として公然と殺されるユスリカたち。

 

膨大なユスリカに囲まれて、平然としていられる人は少ないかもしれません。

 

ですが、彼らが担う役割や、自然界の命の環を通してみると、

そのひとつひとつの小さな羽音は、違ったものに聞こえるはずです。

 

その羽音の先には、豊かで恵みの多い、無数の命が輝く自然が、見えるはずなのです。