タイタニック号の観光のための潜水艇タイタン号は、事故で圧壊しました。

 

この『圧壊(Implosion)』を『爆縮』と誤訳したため、世間では『爆縮』の方が一般化してしまいました。

『圧壊』の他に、『圧壊深度』という用語もあったのですが、それを知らない世間では、『圧壊』という用語は、完全に無視されている状況です。

 

その件は、何度も愚痴ったので、今回はスルーして、タイタン号の船体強度モニタリングシステムと事故時の状況と、地震予知を比較してみようと思います。

 

 

 

タイタン号は、耐圧殻をカーボンファイバーで製造したために、耐圧性能に指摘が入っていました。

そこで、ラッシュ氏は、歪ゲージと音響センサーによる船体強度モニタリングシステムを、タイタン号に取り付けました。

 

このモニタリングシステムは、偽地震予知の観測装置にも見られるものに似ています。

音響センサーは、原理的にはインフラサウンドセンサーとほぼ同じです。

歪ゲージは、電子基準点による観測に似ています。

 

 

タイタン号の事故では、圧壊は、数ミリ秒で終わっただろうと、推定されています。

そのことは、報道でも、ネットニュースのコメントでも、あちこちで見られます。

数ミリ秒なのか、数十ミリ秒なのか、といった細かい点を無視するなら、圧壊が始まってから終わるまで、人が認識できないくらい短い時間だったことは、異論はないところでしょう。

 

タイタン号の船体強度モニタリングシステムは、地震予知でも使われている観測装置にも、類似のものがあることを説明しました。

ということは、インフラサウンドセンサーや電子基準点を利用して、地震の前兆を捉えることができたとしても、地震発生までの時間は極めてみじかいと推定できるので、現実的に警報は間に合わないことになります。

 

 

 

音響センサーにしても、インフラサウンドセンサーにしても、亀裂(岩盤破壊)ができた際の音を捉えることが目的です。

これらのセンサーの情報を活用できる条件として、亀裂は、発生直後に止まり、数時間から数ヶ月も静穏な状態を続けた後に、再び壊滅的に進む性質がなければなりません。

 

亀裂が発生した後、亀裂の進行が止まる?

しかも、後で進行が再開する?

 

随分と御都合主義ですね。

 

亀裂は、どこかで止まるでしょう。

でも、再開はしません。

なぜなら、歪を解放するまで亀裂は進むので、止まった時点では、歪はほとんど残っていないのです。つまり、亀裂の進行を再開できるような歪はないということです。

 

仮に、都合良く亀裂が止まるとしても、どこまで進んで止まるのかは、大問題です。

インフラサウンドセンサーにも届かないようなレベルで止まるかもしれないし、一気に大地震にまで進展する場合もあるでしょう。

小さな亀裂で止まるなら、その後に大地震が起きるとしても、前兆が捉えられていないので、いきなり大地震が来ることになります。

 

 

 

タイタン号は、圧壊に数ミリ秒だったのですから、仮に亀裂が同じ速度だとすれば、1秒でも数百m先まで亀裂が進みます。(実際の地震は、3km/s以上の速さ)

 

地中の音波は、P波と同じ速度で伝わります。

インフラサウンドセンサーで地震の始まりを捉えることは、実質的にはP波を観測しているのと同じことになります。

 

だから、亀裂が始まる音を捉えても、亀裂の進行が途中で一時停止してくれないと、地震予知としては意味がないのです。

 

 

 

 

もちろん、別の見方もできます。

小さな亀裂が増えていく過程を追うことで、地震を予知できるとする考え方です。

 

小さな亀裂が増えれば、全体としての剛性が失われ、地震に繋がりやすくなるでしょう。

これは、小さな地震と大きな地震の発生頻度の違いを考えると、考えられなくもありません。

ただし、長い期間の統計で、規模と発生頻度の比率が表れるのであって、どのタイミングで大きな地震に繋がるのかは、予測できません。

規模も、「今後1年間にマグニチュードX以上の地震が起きる確率はX%」といった感じで、統計論的にしか言えません。

 

 

 

タイタン号に話を戻すと、小さな亀裂の発生音を検出できたとして、どんな行動を取るつもりだったのかな、と考えてしまいます。

 

潜水中に亀裂が発する音を検出したなら、浮上はするでしょう。

でも、そのまま廃船にはいないだろうと、思います。

 

修理?

元々、カーボンファイバーの使い方を間違っているので、正しい修理法は存在しません。

ラッシュ氏のそれまでの行動から、出鱈目な修理方法を、さも世界の誰も思い付かなかった素晴らしい修理方法と思い込んで実行するだろうと、想像します。

 

結局、最後には事故を起こしただろうと、予想できます。

 

 

 

 

タイタン号は、最悪の結果になりました。

地震予知は、「起きる」と言っている限り、起きなくても重大な結果になりません。

そのせいか、安易な発想で予知を試みる人が多いように感じます。

 

もし、地震予知が出ていない時に地震が起きた際、被害の全額を補償する制度にしたなら、地震予知はどう変化するでしょうか。

おそらく、料金が地震保険なみになり、地震予知自体も、今以上に乱発するようになると思います。

 

 

 

今の地震予知は、タイタン号に例えるなら、何百隻も建造しておいて、その内の1隻でも生還したなら「成功!」と叫ぶようなものです。

人の命に責任を持たないで良いから、こんなことができるということです。