スロースリップ(前兆滑り)は、地震の前兆なのでしょうか。

 

 

仮に、スロースリップが地震の前兆だとして、矛盾がないのか考えてみましょう。

 

 

 

(1)全ての地震は、直前にスロースリップの発生があるのか

 

私の知る限りの範囲では、直前にスロースリップがある場合と、ない場合があるように記憶しています。

 

例えば、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、スロースリップがあったと言われています。

一方、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、スロースリップがあったとは聞いていません。

また、東北地方太平洋沖地震の2日前に、震源域の北側に隣接する場所で、M7.3の地震が発生しています。

スロースリップがこの地震の前に起きていたなら、この地震の前兆であって、東北地方太平洋沖地震の前兆ではないと考えるべきです。

となると、東北地方太平洋沖地震の前に、スロースリップはあったのか、気になります。

 

どちらにせよ、全ての地震で、直前にスロースリップがあるとは限らないことは確実でしょう。

 

 

 

(2)全てのスロースリップの直後に、地震が発生するか

 

スロースリップが多い場所は、房総半島沖や日向灘等、限定的です。

この地域では、数年に1度くらいの割合で、M6前後のスロースリップが発生します。

ですが、近年、当該地域で特に目立つ地震は発生していません。

 

スロースリップが起きたからと言って、必ず大きな地震が起きるとは限らないようです。

 

 

 

(3)前震とスロースリップは違うのか

 

熊本地震は、大きな前震がありました。

2月にトルコで起きた地震では、直後に、同規模の地震がありました。

東北地方太平洋沖地震でも、兵庫県南部地震でも、前日や前々日に、前震と思われる地震が発生しています。

地震の前に発生する点は、スロースリップと似ています。

 

実は、地震とスロースリップの違いは、断層がズレ動く速度が違う点のみです。

であれば、前震とスロースリップは、同列に扱えるはずです。

 

 

 

これらを踏まえて、矛盾点を考えてみます。

 

(A)スロースリップでエネルギを消費する

 

スロースリップは、地震の一種であり、スリップに伴いエネルギを消費します。

定量的に観測されているので、マグニチュードも算出されています。

当然、スロースリップによってエネルギを放出した後の震源域は、地震を起こすエネルギは残っていません。

 

 

 

(B)スロースリップは、地震と関連するとは言い切れない

 

スロースリップが起きたからといって、大きな地震が起きるとは限らないし、スロースリップが起きていないからといって大地震が起きないとも言えないことがわかります。

これでは、「私が咳をしたら地震が起きる」と言うのと、大差ありません。

私が咳をしたからといって、大きな地震が起きるとは限らないし、私が咳をしなかったといって地震が起きないとも言えません。

スロースリップと全く同じです。

 

スロースリップを地震の前兆と考えるには、根拠が弱すぎます。

 

 

 

(C)スロースリップが地震の前兆なら、スロースリップの前兆は?

 

スロースリップは地震の一形態で、前震との間に大きな違いはないことは、説明済みです。

それなら、地震の前兆は地震(前震)となってしまいます。

こうなると、ヒヨコが先か、タマゴが先か、の議論です。

地震(前震)の前にも、地震が起きていなくてはなりません。

 

通常の地震と前震は異なると考えれば、この問題を回避できるでしょうか。

つまり、前震には、前兆を示す地震(前震)はないので、「前震の前震の前震の・・・」といった無限ループにはならないとの考え方です。

ですが、これまでの研究では、前震に固有の特徴は見つかっていません。

仮に、違いがあるとしても、問題は残ります。

東北地方太平洋沖地震の前震とされる地震は、M7.3もの大きさでした。これが前震ならば、これの前兆は無かったことになります。

この地震でも、漁業関係を中心に大きな被害が出ており、是非、予知したいところです。

また、この地震の規模は、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)や熊本地震に匹敵します。

M7クラスでも、それが前震であれば、予知することは不可能となります。

熊本地震の前震では、震度7が観測され、この地震だけでも大きな被害がでました。これは、前震だったので、予知を諦めるのでしょうか。

 

 

 

(D)そもそも前兆をスロースリップに限定する理由はあるのか

 

本震の前に、前震があることは、珍しくありません。

なぜ、前震とスロースリップを区別するのでしょうか。

態々区別して、スロースリップだけを『地震の前兆』として扱う理由がわかりません。

 

 

 

前震やスロースリップは、地震の前兆と考えると、色々と矛盾します。

 

一方、前震やスロースリップの後に、大地震が起こる例があります。

これは、どう考えれば良いのでしょうか。

 

まず、前震やスロースリップの震源域と、その後の大地震の震源域は、一致しませんが、隣接はしています。

前震やスロースリップの震源域で支えていた歪が、発生後は支えなくなっているので、周辺の歪の状態が変化します。

その結果、周辺で地震が起こりやすくなるとしても、不思議ではありません。

考え方として、余震と同じです。

 

本震によって、震源域の周辺の状態が変化し、地震が起きやすくなります。

大地震では、変化の幅が大きいため、極端に地震が起きやすくなります。

これが、余震です。

 

地震の頻度が高まるだけなので、余震の規模も、小さいものが多く、大きなものは少なくなります。

ですが、単純に確率の問題なので、稀に非常に大きな地震が発生します。

その典型が、熊本地震でしょう。

 

4月14日に起きた地震は、今は前震とされていますが、それを本震と考えてみます。

すると、4月16日に起きた地震は、最大余震とみることができます。

4月14日の地震と、4月16日の地震では、異なる断層帯で起きています。

 

これらは、前震とされる地震によって、周辺の歪みが変化して、地震が起きやすくなった時、元々地震が起きる直前の状態になっていた場所の近くで大きな地震が起きると、今まで以上に大きな力が掛かり、一気に限界点が近付くと考えることができます。

 

 

 

 

このように考えてくると、スロースリップは、地震の前兆とは言えそうにありません。

 

ただ、スロースリップが発生すると、周辺の歪の状態が変化して地震が起きやすくなるとは、考えられることです。

地震が増えると、確率的に大きな地震が起きる確率も高まるとは、言えます。

 

つまり、スロースリップは、地震の前兆ではないが、大地震が起きる確率は高まる可能性があると、いうことでしょう。