イギリスのディリーメール紙が、中国の原子力潜水艦の事故を伝えています。
もちろん、中国の各紙は、原子力潜水艦の事故を伝えていません。
原子力潜水艦は、元々、機密性が高く、行動も事故も報じることは少ないので、ディリーメール紙の報道が事実か、確認することはかなり困難です。
関連する情報として、習近平氏の動静から読み取ろうとする者もいます。
それによると時系列は、以下の通りです。
習近平氏動静
・8月22日 BRICS首脳会議ビジネス会合を欠席。(23日以降は出席)
・8月29日 李尚福国防相が、あるフォーラムの出席を最後に、動静不明。(更迭?)
・9月10日 G20をキャンセル。
G20のキャンセルは、事故から3週間も経過しているので、関係ないでしょう。
国のトップが、事故の3週間後でも陣頭指揮するようでは、論外でしょう。
おそらく、G20キャンセルは、政治的な意図で決定したものと思われます。
さて、沈没したとされる潜水艦(093-417)は、093A型4番艦のようです。
2014〜2017年頃に就役したようです。
タイプ :攻撃型原子力潜水艦
艦番号 :093-417
所属 :姜各荘 海軍基地
事故発生時刻:2023年8月21日8時12分(現地時間)
場所 :黄海
事故は、中国が黄海に設置した対潜水艦トラップに、自ら引っ掛かってしまったとされています。
このトラップは、チェーンとアンカーから構成されているようです。
おそらく、海底のアンカーと海上、若しくは海中のフロートとの間をチェーンで繋いだ代物でしょう。チェーンで、潜舵やスクリューに被害を与え、航行不能にするのでしょう。
黄海は、全域が大陸棚で、平均水深も44mの浅い海です。
前述のトラップのような対潜水艦の防御策を敷設し易く、潜水艦も垂直方向の逃げ場がないため、潜水艦に不利な海域です。
トラップに引っ掛かった潜水艦は、酸素供給装置(原潜は、電力で海水を電気分解して酸素を得る)が故障し、酸素不足で55人が死亡したとされています。
当該潜水艦の乗組員数はわかりませんが、70〜100人くらいでしょう。
死者数から、助かった人がいることが想像できます。
逆に、なぜ助からなかった者が55人もいたのか、不思議です。
急激な酸欠では、一回の呼吸で意識を失うほど、危険なものです。
ですが、ゆっくりと酸素が減る場合は、かなりのレベルまで、耐えることができます。
潜水艦の内容積は大きく、短時間で酸欠になるとは思えません。水深は浅く、緊急脱出も可能だったはずです。
なぜ、多くの死者が出たのか、不思議です。
潜水艦は、浮上に6時間を要したと、報じられています。
人は、安静時でも、毎分300mlの酸素を体内に取り込む必要があります。
呼吸で肺に入った酸素は、1/4を体内に取り込めます。酸素は、空気の1/5です。
なので、毎分6lの空気を必要とします。
6時間では、約2m3 の空気を呼吸します。
乗組員が100人として、6時間なら200m2 です。
093A型の排水量は、7000tとされています。
この内の2割が居住スペースとすると、1400m3 程度の空間があります。
浮上のための作業で安静時の5倍の酸素消費量があったとしても、6時間で55人が酸素不足で死亡するとは考えにくいところです。
居住スペースは、もっと広いと思われまるので、単純な酸欠では、説明がつきません。
潜水艦を浮上させたのは、誰なのでしょうか。
正常時なら、数人で操船できるでしょうが、その場合は、数分か、十数分もあれば浮上できるはずです。
55人が死亡しているなら、それだけの欠員があったことになるだけでなく、他の乗組員もまともに動けたとは思えません。
その状態で、自力で浮上できるとは思えません。
ならば、救出されたのでしょうか。
それにしては、6時間は迅速すぎます。
トラップを監視する部隊は、直ちに場所を把握し、出撃させたかもしれません。
それは、敵艦を想定しているはずで、攻撃体制で現場に向かったはずです。
救出となると状況は変わり、装備を整え、現場に到達し、作業を行うので、潜水艦救難艦が出動したとしても、6時間は、精々作業開始までの時間くらいでしょう。
ただ、6時間後から救難活動を始めたのなら、多くの死者が出たことも頷けます。
ところで、潜水艦が、自国のトラップに引っ掛かるものでしょうか。
もちろん、どこにトラップがあるのか、知っていたはずです。
ただ、トラップを避けるためには、自艦の位置を正確に知る必要があります。
潜水艦は、原則としてGPSを使えません。
昔は、ロランの電波を使える場合もありました。
ロランは、長波を用いるため、海面下の浅い場所であれば、受信できたそうです。
ですが、GPSは、波長の短い電波を用いるため、海中には届きません。
また、浮上しないので、天測もできません。
おそらく、慣性航法を用いていると思われます。
慣性航法は、誤差が積み重なっていくので、長い航海では、誤差が大きくなります。
帰港時に事故を起こしたのであれば、慣性航法の誤差が大きくなり、正規の航路のつもりが、トラップが設置されている場所に突っ込んでしまったことが考えられます。
なお、沈没はしていないと思われます。
少なくとも、圧壊するような水深はありません。
アメリカ海軍等は、このトラップを知っていたのかもしれません。
知っていたなら、事故を知っていても、一切、情報を漏らさないでしょう。
今回の事故で、当該潜水艦が浮上した場所は、トラップの至近のはずです。
当然、偵察衛星で、場所を確認できます。
事故を確認したとなれば、アメリカ海軍はトラップの位置を確認したことになります。
当然、中国は、別の場所に新たなトラップを設置することになります。
それを把握できなければ、アメリカ海軍にとっては、損失になります。
だから、アメリカ海軍は、無視したいのかもしれません。
ごちゃごちゃと見てきましたが、微妙なニュースです。
事実だとすると、矛盾する点があります。
ですが、単に情報不足なのかもしれません。
同型艦が、「台湾海峡で事故を起こした」との報道が、先にありました。
それが報じられたのも、8月22日でした。
タイプと日付が一致しているので、中国海軍の原子力潜水艦が、何らかの事故を起こした可能性は高いと、私は考えます。
ただ、場所や被害状況、原因は、何が真実か、さっぱりわかりません。
(その割には、長々と書いている)
最後に、原子力潜水艦の事故による放射線漏れを、福島第一原発の処理水放出のせいにする可能性ですが、おそらくしないでしょう。
福島第一原発の処理水は、海流の関係で、台湾海峡や黄海に到達するのは、早くても来年です。また、測定限界を超えるくらい希釈されます。
もし、今、高濃度で放射性物質が検出されたなら、福島第一原発以外の原因を探ることになるので、中国にとっては不都合な事態になります。
中国政府は、放射性物質を検出しても、何も言わないでしょう。