『タイタン』号の残骸は、あっさりと引き揚げられました。

 

 

近年の日本周辺の引き揚げでは、2019年のF35A、2022年のKAZU1、2023年のUH60JA等があります。

 

F35Aは、青森県沖の水深1500mで発見されました。

米軍やJAMSTECも協力し、ブラックボックスを含む機体の一部を引き揚げることができましたが、多くは発見もできませんでした。

海面に激突した際に激しく破壊され、海底に沈むまでに散乱したとみられ、場所も定かではありませんでした。

破片の多くを回収できなかったのは、このような事情があったと思われます。

事故発生は4月9日、ブラックボックス回収は5月3日、捜索打ち切りは6月3日でした。

 

KAZU1は、知床半島沖の水深115mで発見されました。

民間のサルベージ会社が引き揚げを行いましたが、天候不順により遅々として進まず、水面近くまで引き揚げたものの、曳航途中で落下させる失態までありました。

事故は4月23日、引き揚げは6月1日でした。

 

UH60JAは、宮古島沖の水深100mで発見されました。

民間のサルベージ会社が引き揚げを行い、KAZU1と同様に飽和潜水で作業しました。

事故は4月6日、引き揚げは5月2日でした。

 

タイタンは、タイタニック号の沈没地点から500mの水深3800m付近で発見されました。

事故は6月18日、引き揚げは6月28日でした。

 

 

 

港から遠く、水深も深いタイタンが、事故から引き上げまで最も短いのです。

同じ条件の時、日本なら、引き揚げそのものを断念するのでしょうね。

 

その背景には、元・文部科学事務次官の前川喜平氏の発言に見られるように、文科省でさえ、科学技術に対して真っ当な理解ができていないことがあるのかもしれません。

 

 

 

 

閑話休題。

 

引き揚げられた『タイタン』ですが、船首部分の耐圧殻は、変形が見られませんでした。

ですが、船窓(覗き窓)は消滅していました。

 

ただ、船窓が失われたことが沈没に繋がったのか、沈没時の破壊によって、正常だった船窓が吹き飛ばされたのか、わかりません。

と言うのも、残骸から、船窓の構造が理解できなくなったからです。

 

事故前の船窓の外観は、16本のボルト(ビス?)のようなもので、ガラス部分と外枠が固定されているように見えます。

事故後の船窓は、内側から白いもので塞がれているだけで、ガラスも、外枠も、失われています。

そして、不思議なのが、外枠にあったボルトの受け側が見当たらないのです。

私の推測ですが、ガラスは、耐圧殻に接着されていたのかなと。そして、耐圧ガラスの外側に、魚眼形のガラスを固定するために、外枠でボルト止めしていたように見えます。

この構造なら、中から強く押されれば、跡形もなく吹き飛びそうです。

 

 

『タイタン』のハッチは、船首の半球状の耐圧殻が、丸ごと開きます。

ですので、水面に浮上していても、ハッチの半分も水面下にあれば、水圧で開くことはできないでしょう。また、開くことができても、ハッチの一部は水面下になるので、一気に浸水して沈没してしまいます。

 

右舷側にヒンジがあり、そこを支点に、船首が右側へ開きます。

ハッチを閉じた際の固定方法は、わかりませんでした。

ハッチの受け側は、金属製に見えました。

なので、ハッチの受け部のリングが、耐圧殻の円筒部分に挿し込まれているようです。

 

残骸の映像からは、ハッチの固定部分の詳細は、わかりませんでした。

ただ、ハッチの受け側はないようなので、ハッチは開いた(外れた)状態で引き揚げられたようです。

 

 

それにしても、船首全体が開くとは、大胆と言うより怖いもの知らずの設計です。

『しんかい6500』のハッチの直径は、50cmほどです。

『タイタン』は、直径で約3倍、面積で約10倍です。

開口部は、荷重を隣接部に負担させられないから、荷重が集中しやすくなります。なので、開口部は、できるだけ径を小さくしたいところです。

ところが、『タイタン』は、径が最大になる部分にハッチがあるのです。

すっごっいぃ!!

 

 

船首部分の半球状の耐圧殻は、変形していないようでした。

なので、圧壊したのは、カーボンファイバー製と伝わる耐圧殻の円筒部の可能性が高いように思います。

カーボンファイバーは、引っ張りに強いのですが、圧縮には弱い性質を持つので、耐圧殻には不向きな素材であることは、以前にも書いています。

圧壊したのが、カーボンファイバー製の円筒部だったとするなら、チタン製と伝わる船首部が変形していないことは、理解しやすいところです。

 

円筒部が潰れたと仮定すると、猛烈な勢いで海水が流入します。

『タイタン』の船窓は、外圧に耐えるように設計されています。内圧には弱い構造です。

外圧は掛かっていますが、水流は、その外圧を受けて加速しているため、窓にぶつかる時には、水流の慣性の分だけ、強い力を与えます。

その水流が船窓にぶつかったなら、窓が外れても不思議ではありません。

 

また、一気に流れ込んだ水流同士がぶつかった場合も、衝撃波を生むので、衝撃波が船窓を中から外向きに吹き飛ばす可能性もあります。

 

 

『タイタン』の船窓は、強い構造には見えませんでしたが、残骸を見る限り、それが主因とは思えません。

 

残骸が引き上げられているので、詳細な調査が行われていると思われます。

調査結果の発表には、数ヶ月が掛かると思われます。

 

関心を持って、待ちたいと思います。