以前に、「はやぶさ初号機は大失敗だった」と書きました。

見事なほどの失敗ぶりで、予定されていたほぼ全てのミッションに挑戦し、ほぼ全てに失敗(予定していた成果には届かなかった)しました。

イオンエンジンの1基は、早々に故障しました。

リアクションホイールも、早い時期から失われていきました。

小型探査機『ミネルバ』は、イトカワに着地させられませんでした。

この後も、「これでもか!」と失敗を重ねていきました。

最後は、拡張ミッションをできずに、本体を地球の大気圏に突入させるしかありませんでした。

 

これらの失敗の経験を基にした『はやぶさ2』は、全てのミッションで予定以上の成果をあげました。

唯一、3回目の着地は断念しましたが、予定していた2種類のサンプル採取方法は共に実施され、得られたサンプルの量も、当初予定の50倍以上に達しました。

『はやぶさ2』は、全てのミッションに成功し、今は拡張ミッションを実行中です。

 

『はやぶさ2』の成功は、『はやぶさ』でほぼ全てのミッションに挑戦していたからでしょう。そして、失敗から得た経験を活かしたのでしょう。

ただ、『はやぶさ』初号機を「失敗だった」と言う人は、ほとんど居ません。

多くは、「大成功だった」と評価しています。

 

確かに、アポロ17号以来の他天体からのサンプルリターンに成功しました。

ですが、サンプルは、偶々こびり付いていたホコリであり、量は10μgほどでした。

これは、計画していた「グラムオーダー(1g単位で測れる量)」の10万分の1以下という量でした。

これは、ガソリンを10リットル給油する予定が、0.1ccしか給油できなかったようなものです。これを、「給油できた」とは言わないでしょう。

でも、メディアが「大成功」と持て囃したお陰で、『はやぶさ』は「成功した」との評価を得ました。

そして、「これは日本の得意分野だから、続けるべきだ」との世論が、醸成されました。

 

もし、『はやぶさ』が「失敗だった」との評価だったなら、『はやぶさ2』は実現したのでしょうか。

着地回数を、2回から3回に増やせたのでしょうか。

小型探査機を、2機から3機に増やせたでしょうか。

 

技術は、失敗を活かすことによって進歩します。

失敗は、貴重な財産です。

失敗を認め、その要因を探り、対策を練り、次に活かしていくことが重要です。

世間の評価とは違い、JAXAは、『はやぶさ』の失敗を真摯に認め、『はやぶさ2』に活かしたようです。そして、「大成功だったから、もう一度」という声を味方に、充分な予算を獲得したのです。

 

 

 

日本は、失敗に厳しい国民性です。

特に、メディアは、成功か失敗かの二択で表現します。

科学・技術は、メディア関係者には難解らしく、内容に触れることはありません。

メディアは、ナショナリズムにも毒されています。

同時に、何でもかんでも、反論します。

ナショナリズムと反論(政府批判が多い)は、成功と失敗にリンクすることが少なくありません。

その典型が、『はやぶさ』の「大成功」の評価だと思います。

 

一方で、H3は、打ち上げ途中で中止しただけで、原因が判明する前に「失敗を認めよ」となりました。

最終的に、2段目に着火できずに、失敗に終わりましたが、「失敗を認めよ」と指摘された1段目のLE-9自体は、成功裡に終わっています。

「失敗を認めよ」との意見の中に、2段目に言及するものは見当たりませんでした。

内容を見渡すことなく、成功と失敗の二元論を展開するため、どこまで上手くいったのか、どこに問題があったのか、視野に入ってこないのです。

 

 

 

さて、スペースX社のスターシップ打ち上げ失敗ですが、イーロン・マスク氏は、「成果があった」と言い切っています。

背景には、出資者へのポーズがあるのかもしれませんが、失敗も織り込み済みだったのは、確かです。

H3の初号機が、試験機にも関わらず、失敗を折り込まずに実用衛星を搭載していた点で、まるで違います。

H2での打ち上げ費用をケチり、打ち上げ費用が掛からない試験機に強引に載せてしまうくらい、科学技術の予算が厳しくなっています。

おそらく、H3開発の予算も、圧縮されているのでしょう。それが、2段目の改良の予算にも影響していたのでしょうか。

それは、考えられます。

そうであれば、H3初号機の打ち上げ失敗の責任は、与党と政府にあると言えます。

 

成功か、失敗か、責任はどこにあるのかを追求するのが好きなメディアは、本気でやるなら、徹底的に根源を遡ってほしいものです。

それが、ジャーナリズムのやり方のはずです。

 

H3初号機の打ち上げ失敗と、スターシップ初号機の失敗では、H3初号機の方が厳しい立ち位置にあるように思います。

スターシップは1段目で失敗しているのに対して、H3初号機の1段目は成功しています。

それでも、H3の方が厳しい立ち位置にあるのは、試験機にも関わらず、失敗を織り込むことができなかった点にあるのです。

それが露わになった、スターシップの打ち上げ失敗だったように思います。

 

 

H3初号機の失敗は、徹底的に原因を追求し、問題点を改良すると同時に、次回は見逃さないようにするため、設計の注意点や試験方法の策定に反映してもらいたいと思っています。

失敗と認めるかどうかや、その先の責任問題なんか無関係に、打ち上げを成功させるという目的を達成させること、そして次のプロジェクトに活かすために必要なことを、徹底的にやってほしいと思います。

 

MRJの開発断念は、次に何も残せないようです。

その二の舞にだけはならないように、してほしいところです。