墜落原因として、撃墜説より可能性があるものが出てきました。
ダウンバーストです。
当日は、少し北に停滞前線があったので、ダウンバーストを否定できない気象条件でした。
ダウンバーストは、強い上昇気流が起こる気象条件下で、上昇気流で急激に冷やされた空気が重くなって、上昇気流で支えられなくなり、上昇気流の穴のような場所で、雹や雨を伴って局所的に起きる下降気流のことです。ダウンバーストは、地表付近では、下降気流が地面(海面)にぶつかり、四方八方に広がっていきます。
ダウンバーストは、航空機の墜落の事故原因となることもあります。
ただ、固定翼機では恐ろしいダウンバーストも、回転翼機ではそこまで恐ろしいとは言えないと思います。
ダウンバーストの怖さは、下降気流より追い風にあるからです。
着陸直前の固定翼機が正面からダウンバーストに突っ込んだ場合、最初は向かい風になり、対気速度が上がります。こうなると、高度が下がらないので、パイロットはエンジン推力を絞ります。
ところが、直後に下降気流に巻き込まれて、高度を失います。
下降気流を抜けると、最後に強い追い風になりますが、既にエンジン出力を絞っているので、対気速度が下がって失速し、墜落します。
ダウンバーストで墜落する原因は、下降気流より追い風にあるのです。
回転翼機では、追い風で失速することはないので、怖いのは主として下降気流です。
ですが、下降気流は、海面付近では弱まります。
危険な大気現象ですが、着陸態勢でもなく、固定翼機でもないので、墜落は回避できそうなものです。
また、ダウンバーストは、下降気流の範囲が狭く、そこを通り抜けてしまえば、ヘリコプタは危険性は大きく下がります。
ダウンバーストは、雨や雹を伴うのが普通なので、当日のような視界なら目視できます。
ダウンバーストだと気付かなくても、雨の中は気流が乱れるし、偵察飛行で、態々視界が悪い雨柱の中に入らないでしょう。
撃墜説より可能性は遥かに高いでしょうが、正直なところ、可能性は低いと思います。
「当該のUH-60JAは、先月末に点検を受けたばかりで、故障の可能性は低い」
そんな意見もあります。
確かに、故障する可能性は低かったでしょう。だから、師団長らが乗機したのです。
ですが、点検周期は、50飛行時間毎です。
点検後、試験飛行や熊本から宮古島までのフェリーを行っています。
事故時点で、少なくとも10時間は飛行していたはずです。つまり、点検間隔の2割くらいは、経過していたはずなのです。
点検直後との意見は、この2割を、どう考えるのでしょうか。
わずか50飛行時間毎に点検しなければならないことも、どう考えるのでしょうか。
民間航空機は、最も軽いA整備でも250〜300飛行時間毎、B整備は1000飛行時間毎、C整備は1〜2年毎、D整備は5〜6年毎です。
UH-60JAの特別点検がA〜D整備のどれに該当するのか、わかりません。ただ、整備に1週間ほど掛かっているので、作業時間が近いのは、C整備です。
特別点検をA整備と比較しても、整備間隔は5〜6倍も違います。
民間機の方が、営利目的で一般人を乗せるのですから、安全性の要求は軍用機よりはるかに高くなります。それでも、民間機の方が、点検周期がはるかに長いのです。
民間航空機とは、信頼性では格段の差があることが、伺えます。
点検後の時間経過が短い程度で、事故の可能性を否定するのは、説得力がありません。
「点検直後だから故障の可能性は低い」との発想は、中国の攻撃を支持できるほどのものではないということです。
撃墜説は、そろそろオカルトの領域に入りつつあります。
陸自ヘリの撃墜に使用したとして、電波兵器やレーザー兵器等が、出てきています。
仮に、そんな兵器を持っているとして、開戦後ならともかく、平時に使うと思う時点で、どうかしています。
これらの兵器が実用化したとの話は、まだ聞こえてきていません。
それなら、実用化していても、隠しておいた方が得策です。
そして、いざ開戦した時に、その兵器で航空兵力を破壊するのです。
平時の今、そんな兵器を見せてどうするのですか?
また、物理的に不可能なことを言う人もいます。
300km離れた中国軍の艦艇から、電波兵器やレーザー兵器を使用したと言うのです。
艦艇の最上部でも、海面から精々50mです。
この高さからの見通し範囲は、25km程度です。
陸自ヘリの飛行高度は、高くても600mくらいだったでしょう。最新の情報では、高度は150mくらいだったようです。
この高度からの見通し範囲は、45km程です。
両者を合わせた70kmが、今回の条件における電波兵器やレーザー兵器の最大射程距離になります。
これは、海面がベタ凪の場合です。現実的には、70kmは難しいでしょう。
地球の丸さを無視して、300km離れた場所から、超水平線の攻撃をしたと言うのでしょうか。
スペースコブラ(ふっ古い!)のサイコガンでもあるまいし、無茶苦茶です。
波長が長ければ、回析で水平線を越えられますが、回析するなら拡散もします。
拡散すればエネルギ密度も低下するので、ヘリコプタを撃墜できるような強いエネルギを遠距離から照射できるのか、大いに疑問です。
UH-60JAは、フライバイワイヤではないので、電子機器が機能不全に陥っても、事故当時は白昼で水平線も見えており、最低限の操縦はできたと思われます。
最悪、エンジンが停止しても、オートローテーションは可能だったはずです。
一方、撃墜できるような大出力ならば、拡散した分だけでも、周辺に大きな影響(通信障害や電子機器の異常他)を及ぼします。ところが、墜落地点の周辺では、そういった影響が一切みられませんでした。
これには、民間も含まれることになるので、異常がなかったことは信憑性は高いでしょう。
電波兵器を使用したとは、考えにくいところです。
レーザーは波長が非常に短いので、回析は期待できません。大気中の減衰も大きいので、水平線越えの遠距離では、撃墜は不可能です。
再確認になりますが、中国の空母から戦闘機を発艦させて至近距離から撃墜する場合を考えてみましょう。
陸自ヘリは、離陸の10分後に消息を絶ちました。
撃墜するには、この10分間に決断し、行動したことになります。
ヘリコプタが宮古島空港を離陸するところを捉えるには、常時、早期警戒機で滞空監視する必要があります。
これを行っていたと仮定します。
スクランブル発進は、最短でも2分程度掛かるそうです。ジャイロが安定するまでに必要な時間が、制約になっているようです。
カタパルトを装備しない空母『山東』では、空母自体の速度が大きく影響します。ですが、燃料消費や、作戦空域まで位置関係を考えると、長時間に渡って高速を維持したくないでしょう。
なので、スクランブル発進までの2分間に、空母は発艦に必要な速度まで加速することになるはずです。
スキージャンプ方式なので、発艦後、しばらくは加速に重きをおくことになります。
従って、10000mまで上昇するには、2分くらい必要になりそうです。
ここまでで、最短でも4分です。
この高度なら、陸自のヘリコプタをレーダ捕捉できるはずです。
最大射程300kmのミサイルを装備できるようなので、低空の目標でも300kmの射程距離を発揮できるのか不明ですが、ギリギリ届く可能性があります。
ただ、ミサイルの平均速度がマッハ4としても、300km先の目標に命中するまで4分くらい掛かります。
平均速度がマッハ3なら、命中まで約5分です。
ロックオンするまでの時間や、低空の空気密度が高い場所でミサイルの速度が落ちることも含めれば、陸自ヘリが離陸してから撃墜するまで、最短でギリギリ10分くらいです。
ただ、これを実現するためには、早期警戒機で陸自ヘリの離陸を捉え、2分ほどで離陸し、2分ほどで10000m付近まで上昇し、1分以内にロックオンしてミサイルを発射しなければなりません。
ミサイルでも、ギリギリなので、戦闘機では厳しいでしょう。
300kmを音速で飛行しても、15分は掛かります。
低空で音速を大きく超えることは、容易ではありません。
上空ならマッハ2を超えること可能ですが、上昇と加速に要する時間を含めると、やはり10分では少し苦しいでしょう。
できるとすれば、陸自ヘリが離陸する前から、上空で待機しているしかありません。
陸自ヘリが離陸したら、一気に攻撃に移るようなやり方です。
それでも、射程距離ギリギリからの攻撃なら、1発のミサイルで撃墜できるとは思えません。
確実に仕留めるためには、複数のミサイルを発射するはずです。
そういった証拠があれば、「なるほど、撃墜なのか」と思えるのですが、固体燃料を使っているなら残りやすいミサイルの航跡は、1本も見られませんでした。
戦略的にも、物理的にも、電波兵器やレーザー兵器は、考えにくいところです。
戦闘機も、時間的に不可能と考えても良いでしょう。
作戦を立案後、何度も訓練して、やっとできるかどうかの離れ技です。
一か八かのリスキーな作戦なのです。
そんな作戦は、限界まで追い込まれた場合に、起死回生の勝負に出る時にやります。
当然、成功した暁には、高らかに成功を宣言し、窮地を脱したことを喧伝します。
でも、中国政府は沈黙です。
そもそも、今の中国が、限界まで追い込まれているとは思えませんし、陸自の幹部の数人を殺害したくらいで、中国が危機から脱せるとも思えません。
馬鹿馬鹿しいレベルです。
私より著名な方や、有識者と呼ばれる方も、中国の攻撃を否定しています。
論理的に説明しても、「政府は隠蔽する」とか、「中国軍が近く(近いと言っても、少なくとも100km以上離れているのだが・・)にいた」とか、証拠にならないことを連ねて、「中国からの攻撃の可能性がある」と言い続けています。
最近では、悪魔の証明のようなレベルになっています。
「中国からの攻撃の可能性がある」と、言い続けなければならない理由があるのでしょうか。
中国の脅威に警鐘を鳴らす意図があると言いたいのかもしれませんが、こんなことをやる程度の中国ならば、御しやすいと思いますよ。
中国軍の司令部の立場で、こんな作戦を立案するのか、考えてみてください。
実行部隊の立場で、どうやって実行するか、考えてみてください。
例えば、可搬型の電波兵器やレーザー兵器があるとして、どうやって宮古島に持ち込むのですか。
飛行機に乗る際、怪しまれないようにしなければなりません。
あるいは、宅急便で宿泊先のホテルかどこかに送るのでしょうか。
具体的に、想像してみてください。
そんなことを繰り返していれば、気付くはずです。
「なんで、こんな面倒くさいことをしなきゃいけないのか。
この作戦に、それだけの価値があるのか」
そんな風に思えてくるでしょう。
そして、最後には「司令部は、我々現場のことをわかっていない!」ってね。
真面目に考えれば、中国軍が無理して実行するような撃墜作戦ではありません。
実行するメリットは、陸自の南西諸島の司令部を、一時的に混乱させることくらいです。
しばらく経てば、後任が指揮し始めます。
乗機していたのは、将軍格(陸将)ですが、ウクライナ戦争でロシアの将軍が何人戦死したか、思い出してください。
複数のロシア軍の将軍が戦死しましたが、ロシア軍は今もウクライナ領内に止まっています。
有事さえ、複数の将軍が戦死しても、決定的な影響は出ていないのに、平時に将軍格を殺害しても、大したメリットはありません。
それに対して、平時に平和憲法の国を攻撃したとなると、国際的に孤立するリスクがあります。
また、攻撃方法を解析されれば、その対策を用意されてしまうので、次から使えなくなります。
更には、中国の仕業であることを公表する、あるいは「公表するぞ」と中国を脅す等、選択肢を日本側が握ることになるので、中国は後手に回ってしまいます。
撃墜することは、中国にとってメリットより、デメリットが大きく上回ります。
中国って、そんな馬鹿な国だったなら、ホント助かりますけどね。