今回は、本案の空母の費用を考えてみたいと思います。
 
 
まず、空母本体の建造費を考えてみたいと思います。
近年に建造された各国の空母の建造費を調べてみましょう。
 
 ジェラルド・R・フォード        101600排水トン  14190億円
 シャルル・ド・ゴール         40600排水トン    3250億円
 クイーン・エリザベス         67700排水トン    5510億円
 フランス次期空母(中断中)   75000排水トン    8750億円
 
これらの排水トン当たりの建造費から本案の空母の建造費を計算すると、4400億円になります。従って、安く見積もっても4000億円を超えると思われます。
 
建造費を押し上げる要因として考えられるのが、新技術の開発費です。
日本に経験がない技術が、カタパルトとアレスティングワイヤーです。
 
アレスティングワイヤーは、難易度が高くないと思われますが、1日に最大80回、年間最大で10000回の使用に耐える必要があります。着艦時には艦載機はエンジンを全開にするので、入力のエネルギーはカタパルトの出力と同等以上(約2倍?)です。甘くみない方が良いと思います。
 
カタパルトは、電磁カタパルトを前提として、機関を決めました。
アメリカからの技術提供があるとすれば、蒸気カタパルトだけでしょうが、ディーゼルエンジンでは蒸気カタパルトは無理です。
蒸気を得るために、機関はガスタービンと蒸気タービンのコンバインドサイクルを考えても良いのですが、蒸気カタパルトを駆動できる蒸気量をガスタービンの廃熱で得られるのか、熱交換器で艦内スペースを圧迫しないか、などの疑問が生じます。
どちらにしても、カタパルト関連で技術開発が必要になり、建造費を押し上げることになると思われます。
4000億円の見積もりは、空母の建造経験を持つ国の建造費を基にしているので、基本的には開発費は見込んでいません。更に高価になると思います。
 
 
これ以外に、維持費がかかるのです。
サイズで5分の1のイージス艦の維持費が、年間40億円と言われています。
約5倍の規模を持つ本案の空母は、単純計算で200億円となります。
アメリカの空母は600億円と言うので、規模を考えると250億円くらいです。
 
維持費の内訳が分かりませんので、少し予想で計算してみましょう。
燃料費は、概算で年間10億円です。
人件費は、乗組員だけで年間150億円以上です。
食費は、1日1000円として、年間4億円以上です。
自衛隊の艦船にも掛かるのか存じませんが、通常なら税金や保険料が掛かります。
これに、船舶には欠かせない船底塗装があります。更に、定期検査もあります。
これらを考えると、先に取り上げたイージス艦の維持費は、人件費関係が含まれていないと見るべきでしょう。
ならば、空母の維持費だけで200億円は掛かると考えられます。
これに、乗組員の人件費、食費などを加えれば、年間の維持費は総額で、400億円程度と見るべきなのでしょう。
ここでは、純粋な維持費として、約200億円と見積もることにします。
 
 
空母の場合、艦載機の費用が建造費を上回ります。
予備機を考えないで、最大搭載数を購入するとして、購入費を計算してみましょう。
 
 F35C   ・・・・・ 114億円※1 × 26機
 EA18G  ・・・・ 138億円    ×  4機
 E2D    ・・・・・ 216億円    ×  4機
 CMV22B ・・・ 211億円    ×  4機※2
 SH60   ・・・・・  62億円    ×  4機
 (※1:F35Aの価格で代用、※2:輸送機なので陸上と空母で2機ずつ交替)
 
合計額は、約5500億円です。
価格は、メーカの受注状況や為替で変動しますが、最低でも5000億円以上の費用が掛かると思われます。
また、艦載機の寿命は短いので、空母の寿命を50年とすると、艦載機は少なくとも2回は入れ替えを行うことになるはずです。
 
 
当たり前ですが、軍用機も維持費がかかります。
軍用機の維持費は、概ね燃料費の4〜5倍になるそうです。
燃料費は、年間約100億円ですので、維持費を含めると500億円程度になります。
 
 
全体をまとめてみましょう。
 
空母本体
 建造費  4000億円          =  4000億円
 維持費   200億円 × 50年 = 10000億円
 
艦載機
 購入費  5000億円 ×  3回 = 15000億円
 維持費   500億円 × 50年 = 25000億円
 
空母を建造し、50年間維持する場合、5兆4000億円は必要になります。
50年を均しても、1年に1080億円が必要になります。
空母を戦力として機能させるためには、3隻は建造しなければなりませんから、毎年3240億円が必要になります。
更に、乗組員の人件費は、3隻で500億円くらいにはなるので、全体では4000億円/年くらいになるのではないかと思います。
更に付け加えると、電子装備などは10年に1度くらいは更新すべきでしょうし、大規模な改修&改造も行わなければならないでしょう。それらの費用は、4000億円/年には含まれていません。
4000億円/年の費用は、安く見積もりすぎていると言えるかもしれません。
 
 
日本の財政は、破綻状態です。
既に、防衛費の後年度負担で首が回らない状況にあって、一隻あたり1000億円/年、まともに機能させようとするなら3000億円/年も掛けられません。
これが、アメリカ並みの原子力空母になれば、三隻で1兆円/年を超える可能性もあります。
アメリカが、原子力空母を10隻も維持できるのは、日本とは社会構造が違うためです。社会保障が手厚い日本は、ほとんど社会保障のないアメリカのように国家予算を軍事費に使えません。その点を無視して、アメリカと同じようにできると考えてはいけないと思います。
 
費用面で見ると、日本が空母を所有する理由はないように思います。