ここ最近、運輸関連のニュースを見ていると、自動運転に関わるニュースを目にする事が多くなってきているような印象を受けます。自動運転のバス、トラック、タクシーなどなど……。
とはいえ、実現までにはまだまだ山あり谷あり、といったところでしょうか。ちなみにクルマの自動運転というものは、何も近年になってGoogleが試みたものが初めてというわけではありません。
20年以上も前の話ですが、日本や海外の自動車メーカーが都市部の渋滞解消の為に、まるで軽自動車のように小型で軽便な自動運転車両のアイディアを出して研究しているのを、自動車関連の雑誌か何かで読んだ事がありました。あれ、現在はどうなっているんでしょうか。
ただ、これは長距離旅行には適していないような車両で、主に市街地でのちょっとした買い物や通勤に利用するシティコミューターといったレベルのものでしたけれど。
ちなみにこれらには、実現に際して幾つか壁がありました。自動運転はGPSがもたらす座標の情報だけではまだ足りず、それとは別に車両を正確に誘導する電波を発信するインフラが必要です。仮に日本中の道路という道路に、電波の誘導装置を大量に設置するとすれば、その設置費用と維持費は莫大なものになったでしょう。
地域中に存在する車両の分布や走行状態をリアルタイムでチェックし、コントロールする管制塔のような設備とその為の高度なソフトウェアも開発しなければなりません。これは『自動運転の一番のキモ』といえる部分です。これも時間とお金のかかる話でした。
それから、自動運転とはいえ、予測不能な事故のリスクはあります。これは生身の人間が活動する社会である以上はゼロにするのは不可能ですが、その際の法律はどうするか、法的な責任は何処にあり、保険等もどうするか。
しかし、近年、自動運転に名乗りを上げたIT企業等が、少なくとも上記の内2つ、つまり、誘導用の電波施設とソフトウェアの問題を解決する可能性を示し始めています。
まず電波施設はスマートフォンなどにも使われる電波の帯域の一部を自動車の誘導用に利用します。これなら、国中に元から存在する通信インフラを利用する形になりますから、専用のインフラを作らずに済み、開発費の回収も容易になるでしょう。
現在、4Gの電波よりもさらに通信容量の大きな5Gが開発中です。こういった、なかば国策で行われているような、汎用性の高い通信インフラの一部を利用する事により、益々現実味を増した状態になってゆく事と思われます。
ソフトウェアに関しても、実験走行を続けてデータの蓄積が進んでいます。以前不幸な死亡事故を起こしたりもしましたが、実験は着々と進んでいるようです。
しかし、一般に想像されるような、完全無人のロボットカーの実現にはまだまだ、といったところでしょうが。
そもそも、自動運転と一口にいっても、これらは5段階に分けて語られています。レベル1が大まかな運転しか出来ず、ちょくちょく運転手の介入が必要といえる状態。レベル3になって、恐らくバス道路レベル迄の大まか運転が機械任せになります。更にレベル4で殆ど全自動ながら、まだ乗務員が必要な状態。そして、レベル5で基本的に運転手不要といえる水準の完全な自動運転。
しかし、当面の開発目標はレベル2~3あたりに留まるかもしれません。レベル4~5というのはそれだけ難易度が高いし、特にバス、タクシーは乗客からの複雑なニーズを吸い上げる接客係がある程度必要であろう面からも、乗務員はそう簡単に消えて無くなる事はないのでは、と私は考えています。
いつぞや東京の某大手タクシー会社の社長さんが「自動運転が実現すればドライバーの人件費がかからなくなる分、もっと運賃がお安くなって、タクシーが更に使いやすくなりますよ」とネットに書き込んでいましたが、あれは少々前のめりに過ぎるように思います。(笑)
ちなみにですが、現在、乗用車のコマーシャルなどで道路の車線の形を認識してオートクルーズをしたり、障害物を感知して自動ブレーキを作動させたりする機能がありますが、あれは自動車メーカーが長らく研究してきた自動運転の研究から生まれた機能なそうで、確か「レベル1」の技術から生まれたものであったと記憶しています。
さて、一番この自動運転を実現し易い業種はどれでしょうか?
比較的簡単そうなのは、決まった時間に決まったコースを走る路線バスあたりでしょうか。次は単純に大まかな拠点から拠点を移動するような、長距離トラックかもしれません。
タクシーはどうかというと、もしかすれば導入に少々時間がかかるかもしれません。乗客のニーズや渋滞状況を見たりしながら臨機応変なコース変更が必要になる事も多いからです。
そういえば去年の事だったか、NHKのニュースでタクシーの自動化に関わる報道がありました。個人的に興味深かったのは、当のタクシードライバー達はインタビューに対して「自動化?まあ、別にいいんでない?」といったスタンスだったのに対して、一般の顧客側は不安を語る人が多かった事です。
また、私自身もお客様と自動運転の話題になった事がこれまで度々ありましたが、肯定的に捉える方はあまり多くない印象を受けます。
さて、何故、乗務員に「自動運転、まあ、別にいいんじゃね?」という態度の者が少なからず存在するのか。
それは業界がひどく高齢化している部分にあるかと思われます。「どうせ完璧な自動運転が実現する前に自分は引退だ」と考えている者が多いのではないでしょうか。
また、ある程度の自動化で肉体的、精神的な負担が減る事を期待している向きもあるかもしれません。
「ロボットカーだらけになったら運転手さんたち、失業しちゃうじゃないの」という声も聞いた事がありますが、それは心配ないと思います。
運輸業界は高齢化している上に、年々働き手が凄い勢いで減っています。しかも先に述べたように、ある程度の人数の運転手が必要な時代は暫く続く可能性が高い。『元運転手の失業者が大量発生して社会問題化!』などといった事態が起こる可能性は低いのではないでしょうか。
逆にお客様が不安に感じるというのも分からないではありません。といいますのも、高度にIT化したサービスだらけの社会というのは、時に消費者に対して、相応のものをドライに要求する社会でもあると思うのです。
最大限の自動化、効率化をはかる事で極限まで早く安いサービスを実現するのと引き替えに、消費者は機械的で杓子定規なサービスにある程度、順応しなければなりません。
それから、『プロの人間が自らの経験則と機転によって、何も言わなくても自然に痒いところに手が届くサービスを提供していた世の中』は『顧客が自分でどのサービスを受けるか具体的に判断し、仮に間違って意に添わないサービスを受けてしまったとしても、ある程度、自己責任として受け入れなければならない世の中』へ変化してしまうのではないか、という懸念を持つ人も多いと思います。
タクシーの高度な自動化というテーマを通して、『とても便利だけど冷たい未来の到来』に対する漠然とした不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
これはタクシーの自動化に際して、後々重要なテーマの一つになってゆくかもしれません。
それからもう一つ、個人的に気掛かりなのは、高度な自動化は避けられない時代の流れだとしても、それによって末端の乗務員の待遇はどんな風に変化するのか、実は全然触れられていないように思います。
「自動化によって、お客様の利便性がこんなに向上いたします」といった景気の良い話は腐るほどあるのですが、どうも、「サービスを提供するのはなんだかんだ言っても生身の労働者であるし、残念ながら(?)そういった時代はまだ暫く続くであろう」という前提が忘れられたような議論が多い印象を受けるのです。
人手不足の最も大きな原因である長時間労働と、決して高いとは言えず、しかも不安定な給与の問題は一体どうなるのか。自動運転の領域がある程度以上の水準に拡大していくと、場合によっては「月々の売り上げの不安定さは、必ずしも乗務員の努力不足だけとはいえない」といった事態も起こりえるのではないか。
それとも、長時間労働と出来高制を維持する為に、完全な自動運転の目処が立つまでIT化、自動化を敢えて中途半端な水準に押し留めるつもりなのか。それとも、本当に何も考えていないのか。
まあ、自動運転がまだ本格的に実用化していない現状、仕方がないのかもしれませんが。

