『河童』; ありえないけど超現実的な話 | これは名作・迷作

『河童』; ありえないけど超現実的な話

河童







芥川龍之介


”河童”と聞くと何か子供の話とか、おとぎ話とか、そんなイメージがないでしょうか。少なくとも私はずっとそう思っていました。芥川龍之介の『河童』という作品のタイトルを聞いたとき、子供と河童のホンワカとした交流の話だと思い込んでいました。しかしここで出てくる河童は人間と同じような社会生活をしていて、そこに紛れ込んでしまった人間が河童たちと”異文化交流”するという奇想天外なお話です。しかも作者の芥川龍之介がこの作品を書いた4ヵ月後に自殺をしているという、いわくつきの作品です。


主人公は精神病院に入院している30代の男、その名も第23号。彼の回想で始まります。ふとしたきっかけで河童の国に迷い込んでしまった主人公。見た目は人間とそっくり同じ社会構造を持ってはいる河童の世界。しかし思想は大きく違い、恋愛、倫理感、法律、死生観において人間社会のそれを”滑稽”だと笑う。主人公は初めは異論を唱えるものの、さまざまな職業(学生、詩人、哲学者、作曲家、裁判官)の河童と交流を重ね、自分が属していた(日本の)人間社会の矛盾を感じるようになっていく。


この作品は自殺前の芥川が感じていた人間社会(とくに日本社会)への痛烈な批判が描かれていると言われています。確かにそれは見ものです。とくに哲学者の河童が書いた「阿呆の言葉」はそれを象徴しています。「何人も偶像を破壊することに依存を持っているものはいない。同時にまた何人も偶像になることに依存を持っているものはいない。しかし偶像の台座の上に安んじてすわっていられるものはもっとも神々に恵まれたもの、-阿呆か、悪人か、英雄かである」・・・以下同様の批判が続きます。


しかしそれに隠れているような感じになっていますが、”異文化交流の産物”をうまく絡めて描いていると思います。願っていた日本への帰還が果たせたはずなのに、主人公がまた河童の世界に戻りたいと願う場面。この異文化に適応した結果自国の文化を否定するようになる、まさに異文化の外国で生活する人なら一度は体験するUターン症候群。一種の逆カルチャーショックです。この現象と作者自身の日本社会への失望をうまくからみ合わせたところに作者のすごいテクニックを感じました。


しかし異文化から帰ったときのカルチャーショックの経験なら誰しも持つものだし、通常なら数ヶ月で回復するはず。ところが彼の心にはずっと河童が住み着くことになる。ということは異文化交流うんぬんの問題ではなくなる。・・・・・彼が戻った世界は河童の国から見たら”阿呆”の考えそのままの世界。住みにくい、矛盾の多い世界の否定、そして放棄。これが彼の自殺の理由を物語っているのではないかと思わせる。。。河童の世界で楽しく生きている芥川を想像するとちょっと心が救われるのだけど。


ユーモラスだけど、ちょっと現実味があって自分の身にも起こり得そうな話です。人間社会全体を批判するために架空のキャラクターである河童を使うあたりも、なにかこだわりがある感じがして恐ろしいです。しかし彼の河童の世界はどこから出てきたんだろう。賢い河童たちが残したせりふ、何かに影響されたに違いないとは思うんだけど。ここで作品を全部読むことができます。http://www3.plala.or.jp/seon/desk/kappa.htm 長いのであまりお勧めはしません。目が疲れそう。ちなみに私はダイソーで100円で買いました。