やけに空が高く感じた。
澄んだ空気と微かに白い模様を入れる薄い雲が出会った日の空みたいだと思った。
センチメンタルか、俺。
「…は?」
「だから、俺絶対ニノにもメール送ってるって。昨日」
俺の誕生日前日にアイツひとりだけが集まりに参加したもんだから、何かあったのかと
喧嘩でもしたのか、と心配した潤君が次の日連絡をくれた。
遅い昼休みだと仕事を抜けて来てくれた彼と、夕方の人通りの多い広場のベンチでコーヒー片手に話す。
いや、コーヒーを飲んでるのは俺だけだ。
潤君のマイボトルの中身を聞くと「白湯。」と女子みたいな答えが返ってきた。
「なんで見てねぇんだよ(笑)」
「……ほんとだメール来てた。マジかよ…」
「ニノだけ誘わないとか普通に考えてナイでしょ(笑)」
ニノのバースデーも兼ねての集まりのつもりだったのに、と拗ねた顔をしてみせる隣の友人はいつも俺らの事を気にかけてくれる。
「二人とも来ないならまだしもさ、ニノだけ来なくてビビったんだけど
なんかそこは触れちゃいけないのかなーって…」
「いやぁー完全に気づいてなかったほうだわ(笑)」
「…もしかしてそわそわしてた?」
「はい?」
「気持ちが落ち着いてないっぽい時とか、ちょっとなんていうか
らしくない行動とることあるじゃん」
「俺?そう?」
「うん。あるって」
潤君のニヤケる顔がなんだか気に食わなかったので、数秒間見つめあった後「…あれ?なんか今日、顔濃いよ」って軽く指をさすと「ふざけんな(笑)」と返事が返ってきた。
うん
正直、図星だ。
一年前。
自分の誕生日に俺は初めてアイツに会った。
その記憶が乗っかってる分、俺は少しいつもと違う感覚になっていたのかもしれない。
普段ならどうでもいい誕生日を
無意識のうちにアイツと一緒に迎えるってどっかで思い込んでたんだ。約束もしてないのに。
そこに潤君たちと楽しい時間を過ごしてきましたって顔で帰ってこられたから…今なら自分でもわかる。
俺はまるで子供みたいにわかりやすく拗ねた。
アイツがああやっていつも以上に不安そうに感情をぶつけてきたのはまだ抜け切ってなかった酒のせいだけではなく、俺の態度があったんだと思う。
「ニノもヤキモチとか焼くんだねぇ。意外」
「…ヤキモチ、ねぇー…うっせ(笑)」
「ふははは(笑)」
別れ際に「そう言えばアイツと幼馴染だったの?」と聞いてみたら
「あれ?知らなかった?その話したことなかったっけ」と軽く返された。
…ほれみろ。こっちだって知らない事は山ほどあんだからな。
歩きながらもう一度空を見た。
俺今日やたらと空みてんな、と頭の隅のほうで考える。
昨夜、皆からのふざけた電話のあとでもう一度向き直って
「俺は消えたりしないよ」
って言ったらまた浮かない顔をしたもんだから
「いやほら、俺そんな超人とかじゃねぇから」っつったら「バカだ」って笑ってた。
ついでに言うとその笑顔が単純に可愛いと思って、あ、俺コイツの笑った顔好きだったんだ。って思った。
そう、俺は超人でもなんでもない。
ただの一人の男で。
そこまで伝わってないなんて思いもしなかった。
周りから自分がどう見えてるのかも、アイツがどんな気持ちでいるのかも読めるわけもなく。
今こうして面倒なことをわざわざ考えてる自分に笑える。
昨日、帰ってこないアイツを思ってモヤモヤしてた自分に笑える。
夏の匂いが鼻をかすめる度に
あちいねって言いながら汗かくグラスで一緒に麦茶飲んでるだけで本当は十分なんだけど、
どっか出掛けてもいいかななんて思う自分にいちいち笑える。
悪くない、と思う。
これほど隣にいたいと思っているのに、それをうまく伝える術を知らない。
夏を超えて、積み重ねて少しずつ確かになっていく関係の先で
この先何度新しい一面を知って苦しくなって、
何度アイツに救われてありがとうを伝えきれなくなって、
どれほどアイツを愛おしく思うのかなんて
この時の俺はまだ知る由もない。
「お…」
通り過ぎた一軒家からカレーの匂いがした。
毎回ハンバーグで飽きないの?って怪訝そうな顔をするくせに
結局鼻歌を歌いながら楽しそうに料理するうしろ姿が目に浮かぶ。
あのウチに帰って飯を食ったら、とりあえずアイツを目一杯抱きしめよう。
これでもかってほどに抱きしめたなら
どんな顔する?
腕の中で苦しいってちょっとだけ反抗するんだろうな。
多分。
*終わり*