勝手に見てはいけない、と瞬時に思ったけれど。
ハッキリと画面に浮かぶ文字を見てしまった私は
「……」
和也がスマホを持ち上げたその腕を咄嗟につかんだ。
「…はっぴー…って、どういう、こと」
「あー…忘れてた。誕生日だったっけか」
「忘れてた?」
「また歳とっちゃった。年寄りは先寝るね」
「ちょっ、待って」
私の手を振り払うように寝室のほうへ体を向ける。
「おやすみ。」
抑揚のない声。
時計に目をやると、0時半を回ったところ。
「最低じゃん」
私の一言に和也が立ち止まって振り向いたのが俯いた視界の端に見えた。
「え?…サイテイ?」
「…そんな日に外で騒いできて、帰りは遅くなって、12時過ぎて…」
あ。駄目だ。
夜中は涙腺が緩くなるから苦手。
「私。私が」
泣くのはやだな。面倒くさいと、思われたくないって未だに思う自分がいる。
未だに、思う。
「…もうやだ。最悪」
「いや、ちが…」
今日はふたりとも時間に余裕がある日だったはずなのに、とか。
今晩ずっと和也は部屋にひとりでいたんだろうか、とか。
遊んで上機嫌でこの時間に帰ってきたのは私だっていう事実とか。
残念な気持ちと後悔がごちゃまぜに膨らんで押し寄せてくる。
でも。
でも
「…なんで教えてくんなかったの…」
恋人の誕生日を知らない、自分。
か。
去年付き合いだした私たちにとって、和也の誕生日を一緒に迎えたのはこれが初めてになる。
自分からは言い出しにくいイベントかもしれない。
ましてやこの人が自分から言い出すなんてほぼありえないと思う。
彼を責める理由は、どこにも見当たらない。
それでも。
「…知らないことばっか」
いたたまれないよ
「和也のこと。ほんとに何もわからない。私」
私が聞いておくべきだった?わからないけれど。
知っておきたかった。
最初におめでとうって、言いたかったな。
メンドクサイことを嫌う彼だけど、一年目くらい。
「…いいんだって別に」
もう祝ってもらう歳でもないし、って薄く笑う。
「よくないの」
「なに怒ってんの」
「怒ってない!」
さっきと同じ質問を返される。
腹が立っていた。
何も知らない、いつまで経っても彼を一番よく知ることなんてできないんじゃないか。
大きな不安のような濁った何かが身を潜めていた場所から勢いよく顔を出して
今の私はそれに包まれていた。
あ。やだな。
まさかこれが、独占欲ってやつなの。
なんで私、こんなに噛み付いてるの。
視界不良、
よく見えない。
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