顕微鏡画像処理解析システム設計者のブログ

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 目視検査などの自動化装置をシステム設計・製作エンジニアです。

 光学機器や画像処理解析装置、アルゴリズムについて、徒然なるままに記述していきたいと思いますので、ぜひご覧ください。

 画像入力デバイスとして光学機器(特に顕微鏡)を採用した画像処理システムをシステム設計製作しております。

 別に顕微鏡じゃなくてのいいのですが、顕微鏡画像システムが特に得意です。


 本内容が、これから画像システムを購入されようとしている方々のお役に少しでも立てれば幸いです。

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去る2001年の暮れ、私はまだ販売したばかりの装置が設置されている客先の研究室に、インキュベータ製作会社T社の社長と、営業担当者と私の3人で夜遅くまで対応策を思案していた。営業担当者と私は同じ会社の人間である。納入されたT社製インキュベータが全く使い物にならないのである。

 当初、T社のインキュベータは「培養細胞を顕微鏡観察下で長時間生きながらえさせることができる。」との評判だったので、カタログを見て、T社の営業マンから説明を聞いて購入したものだが、そのパフォーマンスは全くのでたらめだった。すなわち、「10時間程度で細胞が死滅する。」というものだった。しかも顕微鏡で観察することが条件のはずなのに、観察視野が「振動する。」というシロモノだった。

 この問題が解決しないと細胞を培養できないため、われわれが販売した「位置ずれ積算が発生しない多点タイムラプスシステム」全体が機能できない。よって、営業マンではなくT社の社長を現場に呼んで対応させようとしていたのであった。

 T社製インキュベータは、それまでの多くのインキュベータと同様の機構であった。すなわち、温度調節された気体を循環させる方式であり、培養細胞に必要不可欠な水分は培養容器へ循環気体を導入する直前に噴霧することによって供給する。

 この方式だと容器に導入される気体の湿度が十分に上がらないばかりか、容器壁面などで結露する。そして肝心の培養細胞は乾燥してしまうのである。また、気体の循環する速度が速いため、容器の結露と細胞の乾燥が速く、供給すべき水の消費も速かった。顕微鏡が水浸しになっていた。

 T社製品の場合、気体を循環させるためのチューブ径が細かったため、気体循環用ポンプと共振して振動の原因となっていた。



 何回目か、何日目かの夜8時ごろ、T社の社長はついにさじを投げた。

 「そんな特殊用途には弊社製品は対応しておりません。」と、社長。

 「培養細胞を顕微鏡観察下で長時間生きながらえさせることができる。といっていたじゃないですか? どこが特殊用途なんですぅ? しかも振動している。自社製品に責任を持ってくださいね。そもそも設計自体がしっかりしてないんじゃないですかぁ?」と、われらが営業。

「技術者として聞き捨てならない発言ですよ~。」と、営業のネクタイをつかみ、首を絞めようとするT社社長。

 「まあまあ、暴力はよくないですよ、社長。事実なんだから誠意を持って対応してくださいよ。」と、私が割ってはいる。



 後にも先にもこの時だけである。社会人になってから人が首を絞めようとする姿を見るのは。小中学生のときにはプロレスごっこが流行ってて、「チョークスリーパー」とかやったりやられたりしたけれど。ともあれ、大事には至らなかった。



 そして私にいい考えがひらめいた。

 「培養容器の周囲全部を温調すればいいんだ。社長、作ってくれますよね。私の指示通りに製作してください。そうすれば、もう御社を追求しませんから。御社ではもうできないってさっき社長も言ってたでしょ? だからもういいです。」

 これがPhoenixのプロトタイプになるのだった。