鮎の塩焼きに使う塩は、焼き塩を使う。
丁寧に1時間ほど炒るそうである。
ここの炭火焼屋の大将のこだわりである。
物事、こだわった方が面白いものである・・
焼き上がるまでは、何時ものようにビールをのむ。
お通しは山椒の佃煮である。
これが又、ビールと相性が良い。
この店は大将の手作りだそうで、
屋根が有って、柱が有って、壁が無い?
真中にセメントで固めた炉ばた焼きの台が一つ、
その周りには申し訳なさそうに板が張り巡らされている。
私はそこで飲んでいる。
それでも、非常に居心地が良い。
大将とは気心知れた付き合いをしているからである。
遠い昔の日曜日、何時ものようにビールを飲んでいた。
カウンターらしき板の前には私を含め数人の客がいたる。
客の一人が柱に貼ってある一枚のハガキを見つけたのが始まりであった。
「あっ、この人知ってる。確か君島さんて言うのよね」
「あー俺も知っているよ」
「私、ファンなの」
「俺も良いなと思ってたんだ」
何とも可愛いカップルである。
彼氏の方は合わせているように思えるが、
自分の事を褒められるのは嬉しいものである。
ビールの一本でもご馳走しようかと思っていると・・
「あー君達、この作家を知って居るのかな」
野太い声でもう一人の客が話に入り込んできた。
「いえ、お会いした事は無いんですが」
「確かこの辺にお住まいかと聞きましたけど・・」
「失礼ですが、お知り合いですか?」
「飲み仲間ですよ」
???だれ、この人、全く私の知らない人である。
話は続く・・
「今度、紹介しましょうか」
一体誰を・・?
「え―本当ですか」
「もちろん、良いですよ。彼も喜ぶでしょう」
確かに私は喜んでいる・・
話は続く・・
「彼はお酒が好きでね、一緒に飲むんですがケチでね、いつも私のオゴリですよ」
「へ―そうなんですか」
カップルは二人揃ってうなずいている。
「ビールが飲めると言えば飛んできますよ・・は、は、は」
「もちろん、私のオゴリでね」
半分当たっているが、何故そこでウィンクをする。
私はケチでは無い証拠に片手にビールを持っている。
しかし完全に出番を失っている。
「60過ぎても独身なので、可哀そうに思い付き合っているのですが・・まったく」
オイオイ、遠くを見つめて愁いてどうする???
そもそも私は、妻も子供も犬もいる・・還暦を迎えた覚えもない。
流石に我慢が出来なくなって「私が・・」
その時、傾いたカウンターの向こうから
「たっちゃん、お待たせ、鮎の塩焼き」
塩焼きと、そしてビール。
「サービスですよ、たっちゃん」
笑顔で渡された。
そうだった・・折角美味い鮎を食べに来たのだから、愛きょう、愛きょう。
私は最後まで素性を言えなかった、いや、言わなかった。
お客さん達は私の話で盛り上がり楽しそうだったからである。
そして何とも、嬉しい事があった。
大将からはいつも「君島先生」と呼ばれていたが、それからは親しく「たっちゃん」である。
「鮎とビールは出会いのもの」
可笑しな客と出会った私は大将と親しくなった。
これも「出会いのもの」なのだろうか・・龍
