二月十四日のことなんです。

二月十四日とゆやああんた、聖バレンタインデーでごんざりまするナ。

わが国では、おなごしはんが「まあ、あの殿方。ちょっと好いたらしワァ」と常日頃から岡惚れしている男性に、コクってええ日になっとります。ただコクるだけでは手持ち無沙汰なんで、チヨコレイトを渡すわけですナ。

ワタイは今年五十四歳になりまするけれど、もちろん青春真っ只中のおりからその習慣はおましたデ。

けど今みたいに、スーパーで特売のチョコレートをドカ買いして、手当たり次第にばら撒くことはなかったです。

要するに『義理チョコ』なる概念がまだ存在せんとからに、ほんまに好いたらしい男性にしか渡したらあかんもんやってん。

ちゅうことは、ワタイらみたいにモテん男にとっては、まさに地獄の一日なワケや。

「もしかして、意中の○子ちゃんが、突然ワタイの前に立ちはだかり、『あのぉー。実装者クン。これ』と、まっかいけな顔して紙包みを手渡し、ぴゅーと飛んで逃げへんやろか。ほんで、中身を改めてみると、手つくりチヨコレイトとともに、『いっぺんだけ、ちち吸うてもええ券』なあんて、オマケが入ってるとうれし」

なんぞと夢想したりして、さらに夢想はエスカレートし、

「え? ほたら愛しの○子はん。もしも、もしもやで。ボクはちちだけ吸うつもりやねんデ。もちろんそうなんやけど、不幸な行き違いから、事故で、あくまで事故でやデ。よそのややこしとこに、ああなってこうなってもてもかまへんの?」

「そら事故やモン。しゃあないワ。実装者クンたら、おなごにそんなことゆわしなや。好かんタコ」


なあんてことになったらどないしょかしらん思いまして、準備運動として、ひたをベロベロいのかしながら待ち構えてても、ちょっともイベントが発生しまへんワ、ほんまにもう。

どこのどいつじゃい。バレンタインデーみたいな、ふざけたモン考えたガキは?

「あーあ。また鬱陶しい日がやってきたワ。ほんまに、なんとかならんやろか」

「どなしてんかか。辛気臭い顔して。またあれか。更年期障害か」

「ちゃうがな。ちょっと、そこの壁に貼っとうこよみ見てみよし。今日は何日や?」

「え? 暦か。今日は二月十四日。それがどないしてん? あっ。今日はセント・バレテキや!」

「しらじらしいなあんた。せんど気づいて、ソワソワしとったくせに。どうせまた煙草が欲しいてなことぬかすんやろ。分かっとうねん。はい。千円あげるさかい、勝手に好いたやつ買うといで」

「うわぁーい。しぇんえんもろた。しぇんえんもろた♪」

いくら、連れ添うて、空気みたいな存在になっとうちゅうても、やっぱりそこはそれ、バレンタインデーには、自らチョコレートを買ってきてくれるほうが嬉しい……。

てなこたちょっとも思いまへん。

好いた煙草買うじぇじぇこ貰うたほうが嬉しいに決まってまんがナ、そんなもん。

ま、臨時収入ちゅうことで、身銭切ってはとてもよう買わんこのテキをば、とうとう家に連れて帰ってきたのです。

実装者流-ザ・ピース

『ザ・ピース』

JT製。二十本入り千円。T10mg、N1.0mg

どこのどなたか存じませんが、バレンタインデーを考えてくれて、どうもおおけに。

ほんま、助かりますわ。