ちゅう、ありがたぁい言葉ご存じでっか。

実際おんどれの目でそのものを見とうのに、対象事物に対して見識がしくうて、ちょっとも本質をよう見んちゅう意味です。

ワタイらなんか、喫煙極道一年九ヵ月もやってきてでっせ、煙草のことだいぶ分かってきたんちゃうかとうぬぼれてましてんけど、まだまだ修行が足りまへんわ。

というのがね、せんだって買い求めた『ラッキーストライク』なんです。

テキはかなり甘みがありまして、最初はてっきりヴァージニア葉の甘みや思うてましてん。

「ふむふむ。なかなかええ甘み出しとるやないけ」とか思うてましてんけど、実はそれはバニラの甘みやったんや。

しかも、バニラがまぶしてあることに、半分がた吸い終わるまでちょっとも気づかんかったんやデ。

頼んないがっきゃろ。

「なにが『ふむふむ』じゃ」ちゅやっちゃ。

なんでバニラまぶしに気づいたかっちゅうと、こういうことなんですわ。

せんだって、ラッキーストライク咥えたなり、火ィ点けんと雑用をこなしてたんです。

もちろん普段なればそんなことしまへん。

煙草をいただくときは、ほかのこと二の次で、それだけを真剣にやるんでやっさかいね。

たまたま煙草咥えてベランダへ出たおり、かかに「ちょとこちのひと。煙草のみに出るんやったら、ついでに燃えるゴミの袋ゴミ箱から出して、あたらしビニール袋入れといとぉ。出したやつは、しっかりゆわえとかなあかへんねんで。時節がらカザがひどいよってな」ちゅわれて、「うーい」てなもんで御用をこなしてやりましたのや。

ほったらね、口の中へさして、やたら甘ったるい味が、にわにわっと残っとったワケです。

あ。こらバニラやと。テキはなんとバニラまぶし銘柄やったんやと。

初めてそこで分かったちゅう次第です。

それ以降は、ラッキーストライク吸うおり、やたらバニラの味に鋭敏に反応するようになってまいましてナ。

おかしなモンでやっしゃろ。人間の五感ちゅうのは。