最近ちょっと書きたくなるこんなショート。

今回もにおゆき。







風が窓を揺らしている。
静かな部屋の中に、カタカタという小さな音と僅かな風の音が妙に響く。

普段なら気にもならないはずの音が、この静かさの中で随分と気に障った。それはあまりにも人工的な、機械的なものだからなのかもしれない。クラスメイトたちが机の上を走らせているシャーペンの音ですら響かないのは、きっとこの風の音の所為だ。

誰もしゃべらない教室。
机上に広がるプリント。
必死に書くクラスメイト。
黙って見守っている教師。
隣のクラスの物音も教師の声も、体育をしているはずの笛の音も何も‥‥鳴いているはずの蝉の声も、何も聞こえない。

人工的に作り出される空調の風の音と、その風に揺らされている窓の音だけが、耳に入っては気に障った。
出来るだけ静かに席を立つ。
それでもイスが床を擦る音に、何人かが顔を上げた。
隣の席に座っている赤い髪の男が、うんざりとした顔を見せた。
解答欄の全てがきちんと埋めつくされたプリントを教師に渡し、そのまま教室を出る。

教室を出るときに視界に入ってきたのは、カバンだけが置かれている主のいない座席。
良くも悪くもよく目立つ、銀色の髪をした男の席。
何の感情もわかない。別に、何の接点もない。
ただのクラスメイト。

そのまま素通りをして、教室の外に出た。
うるさい風の音と窓の音はしなくなったけれど、気が晴れることはない。

教室のすぐ傍にある階段を目の前にして、何故か昇るか降りるかに迷った。今までの同じ状況であれば、迷うことなく階段を降りていただろう。なのに、今は迷っている。
昇れば、屋上に続いている階段。
屋上には鍵がないと出ることは出来ない。
けれど、噂で聞いたことがある。
この階段の先にある扉は、鍵とは名ばかりのもので、本当は開いているのだと。
その所為なのだろうか。こんなにも屋上が気になるのは。

足を踏み出したとき、その足は階段を降りるのではなく、確実に昇っていた。
扉の前に立つ。
確かに鍵はかかっているように見える。
本当に開いているのだろうか?
そっと扉を押した。
回したノブがカチャ…と小さな音を立てただけで、静かに扉は開いていく。
外の熱気が襲いかかってくる。
太陽が、眩しい。

一瞬ひるみながらも、そのまま屋上へと足を踏み出した。
初めての屋上。
特別何があるわけでもない。
中庭にあるような木陰もなく、容赦なく太陽は降り注ぐ。
柔らかな芝生があるわけでもない。
でも、どこか開放感を感じることは出来た。
眩しい太陽も、熱気を孕んだ風も、いいかもしれない。

蝉の声が聞こえる。
体育の授業の笛の音が微かに聞こえる。
不快な音が、ここにはない。

けれど、ここはやはり自分の来る場所ではなかった。
ここに自分の存在する場所はない。

少し離れた日陰に存在した人影。
太陽の光を受けて輝く銀髪をした人物は、たった一人しかいない。

「仁王…雅治‥‥」

彼の表情は見えなかった。
彼の隣には、もう一人存在している。
少し長めの、ひどく癖のある髪。

「あれは確か‥‥」

見たことがある。
仁王雅治と懇意にしていて、よくクラスに姿を現す。
名前は…幸村精市だったと思う。
確か、男子テニス部の部長の。

ここにいてはいけない。
そこに存在しているものは、見てはいけないものだった。
見るべきものではなかった。
自分が見ていいものではなかった。

幸村精市の身体を、仁王雅治の腕が抱きしめている。
仁王雅治の顔が見えないのも、幸村精市の後ろ姿しか見えないのも、彼らが互いに抱き合っているから。そして二人の頭部が重なり合っているのは、二人がキスをしているから。

ここから去らなければ、と思う。
なのに身体は動いてはくれない。
彼らの何を知るわけではない。
彼らに特別な感情を持ち合わせているわけではない。

けれど、酷く焦燥感に襲われた。

















仁王と幸村の出ないにおゆき。

授業中にこんなことを考えていた。

こんな視点もたまにはいいかもしれない。

まったく関係のない人の視点。

ただのクラスメイトの視点。

ただの通りすがりの無関係な生徒。



この続きがあるとしたら、仁王の視点で。








秋華