第4章 三菱 Hyper閃電 を作る
1.双胴型という形
1939年9月にドイツ軍のポーランド侵攻が始まり俄かにきな臭くなってきた同年、コルセアやヘル
キャットといった欧米の戦闘機に対抗する次期戦闘機の要求性能を示す海軍実用機試製計画が提
出されました。その一部を下に示します。
イ.最大速度 405kt(750km/h)以上
ロ.上昇力 8000mまで10分以内
ハ.火器 30ミリ砲1基、20ミリ砲2基
では、三菱は上記の要求性能をどのような設計で応えたのでしょうか。
イ.について―― ・エンジンを胴体の中ほどに載せてNoseが丸い流線形にするとともに、Pusher
typeのプロペラにして空気抵抗を最小限にした。しかし、上記の構造からTailは
2本胴体にせざるを得なかった。
・中翼という胴体の真ん中を主翼を貫通させることで胴体外板と主翼が直角に
交わらせ、干渉抗力を最小限にした。
ロ.について――・機体と同じ三菱で開発中の空冷複列星形18気筒のハ‐43-41 出力2200馬
力を搭載することで、馬力荷重Power-Weight Ratioを最小化しようとした。
・その大出力を効率よく飛行性能に反映すべく、ドイツVDM社の6翅定足プロペラ
を住友金属工業でライセンス生産して装着する設計だった。
ハ.について――・海軍の要求通り、Noseに30ミリ1基と20ミリ2基の機関砲を装着する設計にした。
しかし、設計図面はできていたけれど、実機の製造まではままならずに終戦を迎えた 三菱閃電
戦闘機で す。その運命もさることながら、双胴型(Twin boom type)というユニークな形だっただけにと
ても興奮させられます。
日本語では双胴型とよばれて胴体が2つあるようなイメージですが、英語記のTwin boomのboomは
胴体Fuselageの意味ではなく、クレーンの張り出しアームのようなものをいいます。従って、Twin
boom typeというのは、胴体は主翼後縁で終わり、そこから2本に分かれたBoomの後端に水平尾翼
が取り付けられた形、ということになります。
では、日本語でいう胴体Fuselageが2つある双胴型というのは存在しないのか、といえば、ちゃんと
あるのです。 先の大戦中、1945年にアメリカ North Ameriican社のP-82 Twin Mustangという
護衛戦闘機がそれです。
ご覧のように、P-51 Mustangという単座戦闘機を2つ並べて主翼で繋げたような形をしていて、文
字通りTwin Fuselageの双胴型です。なぜ、このような形になったのでしょうか。そこには、2本のboom
にすることとは全く違う理由がありました。
当時、アメリカ陸軍(航空隊)は、大型爆撃機の長距離飛行に随伴してくれる護衛戦闘機を求めて
いました。それは、長距離飛行の任務を遂行するために2名のパイロットが随時に交代できることが
必要とされました。
縦列の2名席では後列者は操縦に支障をきたすし、並列2名の操縦席では非番パイロットが十分に
休息することが困難、等の理由で、P-51 Mustang戦闘機を2つ並べたのでしょうけれど、そのヒント
になったのが当時の双胴型Twin boom型長距離戦闘機ロッキードPー38だったのかもしれません。
発想がにユニークですね。
さて、双胴型の紙ヒコーキですが、つけた名前が ”Hyper閃電” ということです。閃電せんでんと
は読んで字のごとし、ピカっとする稲妻の一瞬の光のことです。
エンジンを後ろに載せて主翼から後ろで2つに分けられたBoomに橋を掛けたような水平尾翼です
が、よく見ると主翼が機体の前方にある普通翼型の範ちゅうであります.。2本のboomを取付けて、機
体の重さや表面積を大きくしてまでこのような形にした理由は何でしょうか。
威力が大きい30ミリ機関砲をNoseに据え付けて命中率を高めたかった、と同時に、流線形のNose
にして405ノットの要求に応える、というのがその理由です。来襲するアメリカのB-29爆撃機に素
早く近づき、30ミリ砲一発で仕留める、というのがその任務だったからです。
同じ時期に造られた先尾翼型戦闘機 震電も同じ任務でしたが、それらの外観の違いが我々航空
ファンとしては、とてもSensationalなこととして記憶に刻まれています。
2.Hyper閃電の設計図と部品図を描く
設計図を描くといわれても、何処から描いたらいいのかまごついてしまう双胴型戦闘機”閃電”の
平面形は、次のような手順で描くといいでしょう。
先ず、胴体と主翼
・Nose先端から8.00㎝の胴体を描く。
・先端から3.10㎝に主翼前縁を置き、ゼロ戦と同じCr3.70㎝、Ct1,80cm、全幅15.20㎝の
1/2である7.60㎝の左翼を描く。主翼面積はゼロ戦と同じ41.80c㎡です。
・Crの40% 1,50㎝とCtの40% 0.70㎝点を結んだ”40%翼弦線”を描く。この線は翼断面の
最大翼厚位置、すなわち、キャンバーをつけるためにへの字に折り曲げる位置を表す。
Boom
・Boomの平面形は縦長だったり、横長にしたりと色々考えられますが、ここでは全幅15.20cmの
1/2である7.60㎝の正方形で作ります。
・40%翼弦線上の3.70㎝点と、そこからTailへ向かって7.60㎝、胴体腺から3.80㎝の交点を
結んでBoomとする。従って、Boomは1/76 のToe-in(車の前輪の内向)にして直進性を高めてい
る。
水平尾翼
・Boomの後端から1.50㎝幅の水平尾翼を右側Boomまで描くと水平尾翼面mSh 11.40c㎡とな
る。
外形線が描けたら、主翼と尾翼の圧力中心(CP Center of Presuure、すなわち揚力の作用点)
を求めて主翼と尾翼の配置が安定域にあるか否かを確かめる。
主翼の平均翼弦長―――MACw=2/3×(1+ (k2乗)/k+1)×Cr=2.86cm
CGはその50%で前縁から1.50㎝(52%)に置く。
水平尾翼の平均翼弦長―――1.50㎝で圧力中心CPhはその40%で、前縁から0.60㎝。
すると、CG-CPh間距離Lh=6.30cmとなり、VH水平尾翼容積比を計算すると
Sh・Lh 11.40×6.30
VH= ――――=――――――― =0.60→ ≧0.60
Sw・MACw 41.80×2.86
となり、VHが0.60以上なので縦安定は問題ありません。もし、0.60よりも小さかったら分子の
ShまたはLhを増やしてやればよいのですが、同時に機体の重さも増えることになるのでその加減が
重要です。
Hyper閃電の設計図と部品図を示します。
側面形は好きな形にすればいいのですが、気にかけて欲しい部分が2つあります。
・Twin boom構造のTailが重くなりがちなので、Noseの側面積を大きくして多くのおもりを取付けっれ
るような形にすること。
・先に作ったゼロ戦の場合と同じ轍を踏まぬよう、VVを0.035余で計算した少し大きめの垂直尾
翼とすること。
普通翼機 スーパーゼロ戦の派生型ではあるけれど,設計と工作をするうえで特別な注意を払わな
ければならないところが1つだけあります。それは、主翼と左右boomの接合部分です。
上に示した側面図の主翼下面とboomの接合線(太線で示しています)を見てください。主翼翼弦線
とboomの接合面の角度が2/22の同一でないといけません。設計図面はもちろんのこと、接合する
工作においてもしっかりと押さえてすき間やずれのない仕上がりにしなければいけません。いい加減
にすると、水平尾翼の取付角が設計値である±0°を確保できずに縦の安定が得られなくなる恐れ
があります。
すなわち、boomの主翼接合線の角度は、、主翼後縁線の角度 1mm/22mm、つまり tan1/22
と同じ 1/22にすることで尾翼の角度が0°になるのです。左右の主翼にねじれがあると、当然に、左
右のboomも平行にはならず、飛行の直進席を妨げることになります。
Hyper閃電の章終わり。