レフティの店内にはwildturkeyの空瓶が並びジャズが流れていた。心地よく刻むリズムは回りの客の会話を打ち消してくれた。


「お腹空いてるだろ?何が好き?この店は隣の居酒屋と厨房が一緒でね、魚が旨いんだよ。意外だろ?おススメはね、この時期はカキフライ、美味いよ!」

趣味の山登りで日焼けしたというAの浅黒い顔をこんなに間近で見るのは初めてで、私はAの顔を暫く見つめてしまった。


「レフティの意味、知ってる?左利き、僕も小さい頃左利きでね…」。


今まで特段話した事もないので話題に詰まるのではないかと心配していたが、それは全くの取り越し苦労だった。ただただ居心地のよい時間に、私は少しはしゃいでいたかもしれない…。



「時間、まだ大丈夫?少し歩くけど、インディアンハープのライブ演奏が聴ける店があるんだ。知ってる?よかったら行かないかい?」


その知らない楽器にも惹かれたけれど、何より私はAのお喋りの楽しさに、まだこの時間を止めたくなくて大きく頷いた。


その店へ行く途中には名画座があり、「砂の器」を上映していた。足を止めたAが、「観たことある?」

と、振り向いた。

私は小説は知っていたけれど、映画化されたことは知らず首を横に振ると、

「すげーキレイでさ、映像が…観に行かない?来週の金曜はどう?予定あるかなぁ。


店に着いて暫くすると、若い女性が楽器を抱えて登場した。長い髪を揺らし乍ら細い指先で爪弾く音は、異国に吹く乾いた風を感じさせた。

初めて聴くその音色は優しく胸に染み入り、私はライトを浴びた彼女を見つめながらその響きに聴き入っていた。


演奏が終わり簡単なおつまみに水割りを口にしながら、先程の映画の話になった。

すると、

「だけどそれはさ、逆差別だと思うけどね」

Aが珍しく語気を強めた。

驚いた私は口をつぐみ、会話は途絶えた。


暫くの沈黙の後、

「ごめん、ごめん!つい夢中になっちゃったよ」

笑ったAはいつもの穏やかな顔に戻ったが、彼は実は何かを抱える人なのではないか?と、私はふと思った。

日頃の明るいキャラの裏には、私の知らない顔があるのではないかと。