翌週のある朝。

廊下を歩く私に、カッカッカッと早い足音が追いかけて来た。私を追い越して振り向いたのは、2年先輩のヒロコだった。

お茶目で面白い彼女は先輩方にとても可愛がられていたが、私たち後輩は当たらず障らず…どうも信用出来ない節があり、お喋りは楽しいがあくまでも聞き手に徹していた。


「ねぇ、Aと付き合ってるの?」

あまりにも突然でストレートな質問に、私は咄嗟に、「いえ…」と首を振った。確かに1度飲みに行っただけで、付き合っているわけではない。


「そう、それならいいの。二人でいるところを見たっていう人がいて…。」

珍しくふざけた調子もなく早口でそう話すと、一度ため息をついて、話を続けた。


「アイツはやめなさいよ。アイツは結婚するのよ、中学の同級生の女がいてね。妊娠して手術させた事もあるからって。

だから、付き合ってないならいいけど…誘われても断りなさいよ。」


再びカッカッと靴音を響かせて去って行く彼女の後ろ姿を見つめながら、私は思い出したようにゆっくりと息を吐き出した。


骨折した直後はそれ程痛みを感じないが暫くすると激しく痛み出すと聞いた事がある。ドアの向こうに消えるヒロコの背中を見送り、再び廊下を歩き始めると、私は、次第に呼吸が苦しくなるのを感じた。