母がまだ、元気だった頃。

夏といえば、母は冷蔵庫にあずきバーを常備していた。

女ばかりの家庭、母は風呂上がりにはバスタオル一枚を身に纏い、髪もタオルでくるくるっと巻いて、先ずはあずきバーをガリガリと齧っていた。

(女ばかりの家庭であっても、世間の母親はこんなことはされないと思いますが…)


チラッと一瞥する私に、

「冷蔵庫にあるわよ。美味しいよ!」

と母は声をかけてきたが、私は当時、アイスクリームが好きで、母がガリガリと齧るあずきバーを食べたいとは、全く思わず、

「いらない」と冷たくひとこと返した。


「美味しいのに…」

と呟く母は寂しげで…いや、「自分が一番」の母のことだから、この美味しさが分からずに可哀想に、なんて思っていたのかもしれないが、母はこちらを見ることなく、相変わらずガリガリとアイスバーを齧っていた。


あの頃、私はそんな母が嫌だった。

私が子供の頃、母はいつも綺麗に化粧を施し、自作の服をおしゃれに着こなし、誰よりも素敵だと自慢の母だった。


しかし、父が破産し、生きていくことに精一杯だった母は随分と変わってしまった。

まだ若かった私は、そんな母を受け入れることができず、母を蔑み、批判しては、何度も泣かせた。


しかし。なぜだか最近、あずきバーを選んでいる自分に、あの頃の母が重なる。年齢的にもったりバニラアイスよりも、あっさり小豆アイスが美味しく感ずる年齢になった事もあるのだろうけれど。


一緒に食べようと誘ったあずきバーをすげなく娘に断られた母は、あずきバーを齧りながら寂しさを堪えていたのかもしれないな、と今は、思う。

お母さん、ごめん、とあの頃を振り返る今朝は、雨降り…。