土曜日の休み時間、石ろうかの方で、
「ピーピー」
と、鳴く声がした。何かなと思い行ってみると、それは片手で包み込めるような、生まれたばかりの小さなスズメのひなだった。
スズメは、ぼくの家で育てることになり、小さなダンボール箱に草をしきつめた中に入れてやると、少し羽根をばたつかせた。友だちと、
「大きくなったら神明神社に放してやろう。」
と話しながら、その箱を大事に抱えて帰った。

次の日の朝、ぼくが起きると、スズメは箱の中で元気に動いていた。
「おなかがすいているんじゃないの?」
と、ぼくはえさをやることにした。わりばしの先にごはんを付けてやってみたが、スズメには大きかったのか、首を横にふって、口に入れようとはしなかった。そこで、今度はつまようじでやってみたら、口を大きく開けてご飯を食べた。
水もストローで口に運んでやると飲んだ。昨日はうずくまっていてご飯をやっても全く食べなかったので、
「これで元気が出そうだ。」
と安心した。
ぼくたちは、スズメのことを「スズ」と呼んだ。スズは、庭のさくらんぼを食べに来たモズの声を聞くと、返事をするかのように大きな声で鳴いた。ぼくには、お母さんを呼んでいるかのように思えた。

日曜日の午後は用事があり、家族みんなで出掛けてしまった。スズはもうちょっと大きなかごにうつし、二階のぼくたちの部屋に置いた。その日は午後からとても暑くなり心配したが、帰ってきてスズを見に行くと、元気そうで安心した。

ところが、夜になってご飯をやろうとかごを持ってくると、スズは立つ元気もなく倒れていた。あわてて水をやろうとしたが、口を開けない。くちばしに何度も水をやるとやっと口を開けるようになり、飲むようにもなった。これでだいじょうぶ、スズは助かると思ったが、すぐに口をとじてぐったりとしてしまった。そして、口から茶色い水やご飯が出てきた。ぼくは、
「死ぬな、がんばれ」
と心の中でいのっていた。

しかし、スズはお父さんの手のひらの上で固まってしまった。ぼくには元気なように見えたけれど、スズは死んでしまった。家族みんな泣いた。ぼくも泣いた。ぼくは、もっとスズの立場になってちゃんとせわをしてやれば良かったと、悔しい気持でいっぱいだった。
今でもスズのことを考えるとなみだが出そうになる。スズはたった二日しかいなかったけれど、ぼくの心に大きく残っている。そして大切な事を教えてくれたように思う。
スズ、ありがとう。                       

※茶色に変色した原稿用紙がでてきました。
なくさないように、残しておきます。あの頃のキミを忘れないために。
                    ぶん:Koukun