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新明和工業が開発した救難飛行艇「US-2」が、遂に海外に輸出されるそうだ。
飛行機になじみの無い方にとっては、航空機産業の規模がさほど大きくないように

思える日本の一企業が開発した飛行機が、何ゆえに、各国から引く手数多なのか

不思議に思われるかもしれない。が、一方飛行機マニアにとっては、「US-2」の性

能は周知の事実で、このニュースは、冗長な話題にすぎないのかもしれない。

しかし、今日はとりあえず、このニュースをスタートラインにして、日本の技術力と

いうよりデザイン力について、少し穿ってみようと思う。


http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130324/plc13032406580005-n1.htm

このニュースにもある通り、「US-2」は我が国が世界に誇る飛行艇である。その最

たる特長は、多少の荒れた海面にも適応できる安定した発着水能力にある。

写真からも確認できるように、発着水能力の肝にあたる「US-2」の底部、ボートに

あたる部分は特徴的な曲線で成形されていることがわかる。この成形曲面は簡単

に導き出されたものではなく、そこには以下述べるような長い研究成果が集積され

ている。
日本における純国産四発大型飛行艇の実用化は、1938年に正式採用された新明

和工業の前身にあたる川西航空機製「九七式飛行艇(H6K)」に始まる。その後、名

機「二式大型飛行艇(H8K)」が開発されて、日本の飛行艇製造技術は遂に世界レ

ベルに達した。戦後、程なく川西航空機から新明和工業(興業→工業)と社名が変

わり航空機の製造を再開し、今に至る。「US-2」の開発には、パクリ専門の中国政

府が言うような「数年の技術蓄積」どころではなく、優に80年の歴史があるのだ。

斯くして、「US-2」は世界に誇れる救難飛行艇として登場できたのだ。


また、次のようなニュースもあった。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130321-00000040-mai-soci

飛行機の性能は、単純に言い換えれば「推力」「抗力」「揚力」「重力」という四つの

力をを如何にバランスさせるかで決定される。
戦前・戦中を通して我が国は、四つの力のうち「推力」にあたるところの米国に対

抗できる大馬力エンジンを開発することができなかった。特に高高度飛行に必要

な排気タービンは実用化に至らなかった。高高度を飛行する爆撃機B29の迎撃を

主任務とするべく開発された「烈風改(A7M3-J)」の設計者、堀越二郎氏にとって、

これは致命的であった。堀越氏の技術者としての苦悩はそこにあったと言っても

過言ではない。そこで、氏は、「推力」の不足というハンディキャップを、「抗力」を

極限まで最小化することによって、解決しようとした。その結果、「烈風改」の前身

「烈風(A7M1)」において「抗力」の指標である空気抵抗係数を0.0147という驚異的

な数字に抑えることに成功したのである。今回発見された設計図によって、このあ

たりの経緯を知る事ができ、航空機設計者・技術者堀越二郎氏の苦闘を読み解く

ことができるかも知れない。


さて、至るところでなされたこのような技術者の懸命な努力は、無に帰することな

く、戦後の日本の発展に大きく寄与することになった。
有名なところでは、新幹線の開発を挙げることができよう。
歴代新幹線の先頭車両の特徴的なノーズをはじめその個性的なボディーは、空

力学・流体力学の進歩を、私たちにビジュアルとして見せてくれる。
私個人としては、新幹線オタクを自任するSKE48の松井玲奈ちゃんのような、外見

だけでなく内装の隅々まで愛でるほど新幹線に対しての思い入れはない。しかし、

戦前から連綿と続く航空機デザインの系譜を受け継いでいるであろう歴代新幹線

のフォルムには深い感銘を覚える。


さらに、最近、日本の造形美に関した話題を語る際に、頻繁に登場するのが、東

京スカイツリーである。このデザインにも、日本古来の伝統建築の要素が多く取り

入れられているらしい。例えば、「そり」とか「むくり」とか言うのだろうか。聞くところ

によると、タワーを構成する絶妙な曲線は、設計者のフリーハンドで生み出された

線ではなく、複雑な計算の上に導き出されたものらしい。スカイツリーの独特なフォ

ルムが形成された裏にも、技術者たちの長年に亘る努力の蓄積があると言っても

いいのではないだろうか。


以上述べたような工業製品のフォルムの美しさを考えている時、私は、いつも思い

出す言葉がある。それは、ナチス・ドイツの空爆からイギリス本土を守り抜いた救

国の名機『スピットファイア』の設計者、レジナルド・ミッチェルの設計思想を的確に

表した…「美しいフォルムには高性能が宿る。」という言葉だ。ミッチェルは決してエ

リート設計者ではなく、どちらかといえば、職人肌の技術者であった。


そこで、私は思う。
工業製品において、美しいフォルムを獲得することができるのは、その1%は100

年に一人出現する天才によってかもしれない。しかし、残り99%は100年に及ぶ技

術者たちの試行錯誤によって洗練された結果得られたものではないだろうか。

以前どこかで述べた「日本のモノ造りは、下町の中小企業によって担われている」

と言われる本当の意味…その一端は日本の技術者の職人気質とか連綿と続く歴

史など、一人の天才に帰せられない、こんな要因にあるのかも知れない。
そして、ここへきて、日本人のモノ造りの本質が、精密さだけではなく、純粋アート

でもない高度な工業デザイン力にあることを、世界の人々が徐々に理解しつつあ

るように思う。