〈(うまれでくるたて/こんどはこたにわりゃのごとばかりで/くるしまなえよにうまれてくる)〉は、父親が最期に言い残すことはないかと聞いた時、妹トシが言った言葉だといいます。意味は、「また人間に生まれてくる時は、こんなに自分のことばかりで苦しまないように生まれてきます」。その真意は、自分のことだけに苦しむのではなくて、人のため、すべての人の幸福のために苦しむような生き方をしたい、ということでした。
これは驚くべき言葉です。普通、こんな業病を患ったら、今度生まれたら二度とこんな病気にはなりたくない、こんな苦しみは味わいたくないと言うのが当然だと思います。
ところが、彼女は自分の辛い運命を嘆くよりも、自分の苦痛を人のために活かしたい、と語ったのです。私が「永訣の朝」の詩篇中、最も心を打たれた箇所であり、トシという女性の崇高さと情愛の豊かさを感じさせられました。