ウレハプロローグから
ウレハプロローグ(小説家になろう)
まず『ウレハ』を読んでくださってありがとうございます。
もう、この作品を書き始めて何年前になるのかな? それくらい構想の段階から時間が経過しました。
今読むと、顔から火が出そうな程、恥ずかしい文章だったりします。
企業しよう、などと絵描きさんと相談して、策を練っていた頃が懐かしいです。
実はもう、構想だけでは終わっていますし、二部も三分の一ほどできあがっていたりします。
それをここでアップするかは、相方さんと相談して進めたいです。
ブログを通じて感じたことは
長文って不利だなぁです。
こんなに文章垂れ流してると、読む気も失せますね。
なので、本当に、プロローグを読んで何かを感じた方は、小説家になろうの方で、ダウンロードして読んでくださいね。
これからチームイミタンとして、どう活動しするか、そんな先のこと決めてません。
そもそも相方さんと私の、筆の速度が違い過ぎてここに至った経緯があります。
それはこのサイトを見てくださればわかると想います。
ああ……真紀の塗り見たかったなぁとか……ごめんなさい相方さん。
最近、心理学に凝ってまして、似非ですよ。
私の中では、過去と折り合いをつけるための公開でした。
どんなカタチでも、だれか一人でも読んで頂ければと……。
実際私は、職場のオタク君に読ませた所、彼は良太のようにすぐに髪を切って、性格まで少し変わりました。
ライターなら、そんなときはもう涙ものです。至福の時間ですね!
とまれ私の中のバイブルとしてこれからも『ウレハ』はあり続けると想います。
本当に自己満足です。ごめんなさい。
今までウレハ読んでくださってありがとうございました!
チェックチェック
by イミタン
『凸凹(でこぼこ)』 <作詞作曲:山中隆 歌詞改悪:良太
二つが一つに重なり会うときってあるでしょ
それって奇跡だよね
それってかっこいいよね
可愛くない?
わたしの気持ちがあなたに転がり込んで
オレの気持ちがおまえに転がり込んで
俺達は(私たちは)
凸凹の坂道転がるように駆けたんだよ
知ってるでしょ
それはウレシクテ
ハズカシイことでもあるんだって
だからね
あなたが私を(オレがおまえを)チェックチェック
気持ちはいつだって伝わるよね
あなたへと流れ込んだ気持ちはきっと届いてるよね
思い描くと夢は叶うね
でも頑張らなくちゃ
撲は目を瞑ってしまうよ
二つが一つに重なり会う時ってあるでしょ
それって奇跡だよね
それってかっこいいよね
可愛くない?
わたしの気持ちがあなたに転がり込んで
オレの気持ちがおまえに転がり込んで
俺達は(私たちは)
凸凹の坂道を転がるように駆けたんだよ
知ってるでしょ
それはウレシクテ
ハズカシイことでもあるんだって
だからね
あなたが私を(おれがおまえを)チェックチェック
気持ちはいつだって伝わるよね
あなたへと流れ込んだ気持ちはきっと届くね
二つが一つに重なり会うときってあるでしょ
それって奇跡だよね
それってかっこいいよね
可愛くない?
わたしの気持ちがあなたに転がり込んで
オレの気持ちがおまえに転がり込んで
俺達は(私たちは)
凸凹の坂道転がるように駆けたんだよ
知ってるでしょ
それはウレシクテ
ハズカシイことでもあるんだって
だからね
あなたが私を(オレがおまえを)チェックチェック
気持ちはいつだって伝わるよね
あなたへと流れ込んだ気持ちはきっと届いてるよね
思い描くと夢は叶うね
でも頑張らなくちゃ
撲は目を瞑ってしまうよ
二つが一つに重なり会う時ってあるでしょ
それって奇跡だよね
それってかっこいいよね
可愛くない?
わたしの気持ちがあなたに転がり込んで
オレの気持ちがおまえに転がり込んで
俺達は(私たちは)
凸凹の坂道を転がるように駆けたんだよ
知ってるでしょ
それはウレシクテ
ハズカシイことでもあるんだって
だからね
あなたが私を(おれがおまえを)チェックチェック
気持ちはいつだって伝わるよね
あなたへと流れ込んだ気持ちはきっと届くね
祭りの後は何とも空しさが漂うものだ。あれだけの騒ぎのあとでもステージはPAなどでひしめいているし、パイプ椅子の下には所々空き缶や透明な容器が散乱している。ボランティアと役場の人たちはゴミを拾っていた。
椿はそれをステージから遠巻きに見ながら、老人バンドが主導になって行っている片付け作業を手伝おうと、PAに向かい背を向けているマスターの下にいった。
真紀が小城舞を見つけて、役員席のほうにいってしまったので、隆も真紀の後を追った。
良太と恭介は今も半ば放心状態を保って、ステージ端の置物になりつつある。
「こら、良太! 恭介!」
源二が怒鳴ると良太は我に返り恭介に倒れかかった。恭介はロボットのような動きで顔を少し動かし黒目を下げた。
「おれ、おれ……」
「チェックチェック、すごかったおれ、でしょ?」
良太は口に手を当て素早く掌をひっくり返して言った。
「そう、それ、良太君!」
恭介は思い切り良太を抱きしめた。
「本当やり遂げたんだねぼくたち……」
「このガキどもが! はよこんか!」
二人は慌てて源二の下へと向かった。
良太が、ユキエに挨拶をしたときだった。三つ揃いを着こなした、小太りの男が現れた。
「岩城さん、本当にお世話になりました。沢山の機材と人材をお借りして――本当はね、カラオケ大会だから、こっちはカラオケの機械でやろうとおもってたんですよ。いやぁ……生バンド、良かったですね……それにあんなサプライズがあったなんて、私共はもう……」
と、言って目を潤ませている。
「片付けはさせてください。皆さんの手はこれ以上借りられません。居鶴のため、いや鶴差の人たちのせめても恩返しです」
源二が起き上がった。
「これやけんやくしょんやつぁ……芸能人が――」
そこでマスターがさっと手を挙げ源二の口を止める。
「わかりました。わたしたちも、歳にはかなわない」
マスターがそう言ったので、役員はステージを降りていった。
源二は鼻を鳴らす。
「あんちゃんたちも、もういいけん、今日はおつかれさん」
ユキエはそう言って良太の頭を撫でた。
椿は良太と恭介に合図をした。
「ありがとうございました!」
三人の元気良い声に老人たちは思わず頬が緩んだ。
良太と恭介は役員席にいる真紀たちの下へと向かったが、椿は一人舞台の片隅でギターのブリッヂを無意識にさすりながら、考えていた。
ライブで演奏しているときは今まで以上に心が躍った。しかし終わってみれば何かが重く背中にのしかかっているような気持ちになった。(なに? みんな良い演奏したじゃない、ライブは大成功じゃない、何がいけないのよ?)椿は自問自答を繰り返す。
役場の人がテントの外をかこい、中は見えてはいるが、立ち入り禁止になっていた。その場所に向かって良太と恭介は走っていった。役員が真紀に話しかけ、二人は通される。その先には真紀と隆が並んで立っていた。椿は隆の姿を見て、胸の痛みを覚えた、どこが痛むのかがまったくわからない。そしてその痛みの正体を漠然と掴んで、ギターをかき抱いた。
源二はステージから観客席を見渡す。誰も座っていないパイプ椅子は寂しそうにそこにあった。ユキエは生バンドが置いていったベースを手に取り、眺めている。マスターはPAの後部から顔を上げた。
源二は空を見上げた、千鳥は飛び交い鳴いていた。
大きく息を吸い込み吐いた。
隣にあったマイクスタンドからマイクを取った。
マスターと目を合わせて深くうなずく。ユキエを見て皺が刻まれた顔を歪めた。
ゆっくりとドラムスローンに腰掛けるマスター、腰を曲げ所定の位置に立つユキエ、
ベースの音がリズムを刻む、ドラムがそれを追いかける、源二は苦笑いをして歌い出した。
椿は老人バンドの音を聞いて、濡れていた両目をそのままに、繋がっているコードを確認して、顔を上げててギターをひき始めた。
源二は思った。死んだ大蔵が笑いながらギターをひいていると、今にも叱咤されそうで背中がかゆくなった。
ユキエの唇は震えている。マスターは悟りきったような表情だった。
今日の音色はどこか暖かい。隆は口をつり上げてにやりと笑った。良太と恭介は見とれている。真紀は敬意という言葉を胸に、真剣な顔をして、
やがて緩やかな波が去った。老人バンドは、皆ギターがいるであろうその位置を見た。一瞬だけそれは夜空の星が輝くように光を放った。そして三人は囁くような大蔵の声を確かにきいた。
「おまえら、まだやっとるんか、こりんのぅ」
大蔵の声はひたすら暖かく笑っていた。
演奏が終わると、源二は言った。
「これで心置きなく引退できるなぁ、ユキエ」
「大ちゃんが……」
と、ここまで言ってユキエの声はでなくなった。
椿はこの光景を見ていて思った。言葉には表せない音があって、時々こうして偶然の重なりでそれが繋がってしまうのだと。
自分の気持ちを思うと、苦しい。でも今は――。
帰りはとても穏やかで椿の表情は安心しきっていた。
「やっぱり車はこうでなきゃね」
「あんなに怯えてたのは椿ちゃんだけ」
「真紀さん、まさか……この車を運転していたんですか?」
小城舞はハンドルを匠に操作し、峠を越えていく。
「うん。真紀ね、すごい上手なんだよ運転」
「そんな……ペーパードライバーで反応の鈍い真紀さんが運転だなんて……」
椿はクスクスと笑って、短くなった真紀の髪の毛を後部座席からわきわきと弄ぶ。
「小城さん、こいつの運転すごいよ。車がさ、シーソーみたいになるからな」
隆は持っていたウィッグを良太の頭の上に乗せた。
良太は「わあ」と大げさに驚いて、目をぱちくりとさせた。
恭介はそんな良太の姿を見て、
「隆君には勝てないけど……かわいい」
松尾が恭介の肩に肘を乗せて、
「まぁ、本物と偽物の差か……血は争えん……でも良太、気を落とすことはないぞ、ロ、ピーで女装したおまえは、恭介の好みにぴったりだ」
松尾はぬっと顔を突き出し、迫った恭介にたじろいだ。
「隆さん、今まで本当に真紀さんがご迷惑をおかけしました。社を代表して私が――」
隆は険しい顔に一瞬なって、
「やめてくれよ。おれは逃げる前から知ってたし、こいつを当時は友達と思っていたし」
隆がそう言うと、椿が唇を釣り上げて隆を見た。まるで弱った魚を追い詰める鮫のような顔つきになった。
「みんな、聞き逃さなかったわね? チェックチェック、当時は友達と思っていたし」
隆が椿を嫌そうに見て、舌打ちをした。舞は(?)
「舞ちゃんごめん……真紀ね、隆君とキスしちゃった」
真紀が悪びれもなく言うと、
「浮いた話しひとつなかった真紀さんが、こんな少年と……失礼、未成年という意味ですよ隆さん」
「真紀、おまえってさ、そういうこと言うの好きな、もう俺あきらめたわ」
隆は掌を合わせ後頭部に支える。
「キ、キ、キスキスキス……って」
椿は顔を真っ赤にし俯いた。
「く、口と口が出会う……やつ……?」
「そうに決まってるじゃん。椿ちゃんも真紀としてみる?」
椿の心は完全に沸騰した。
「僕は、それくらいしてるだろうとおもってたけど、ねぇ恭ちゃん? だって目の前で抱き合ったりしてるもん」
恭介は恥ずかしそうに頭を下げた。
「俺様は、キスどころか――」
椿は松尾の額をぴしゃりと叩いた。
「椿ちゃんって、恋は知っているわなんて言ってたけど、そういうことは恥ずかしいんだ。かわいいね」
「わたしだって、キスくらいしってるわよ!」
恭介の目は点になった。
「相棒、無理してるのばればれ」
隆がそう言うと椿は隆の胸をぽこぽこと叩いた。
「うるさい! わたしはリーダーよ静かにしなさい!」
車は峠を越え、鶴差市内に戻ってきた。
「舞ちゃん、そこをね左、うん」
真紀が道を教える。
「真紀……嘘を教えてどうするのよ、右でしょ」
舞はたまらず、
「どっちですか?」
「右で、ごめんね、運転しているのと、横にいるのって違うから」
舞はため息をついてハンドルを右にきった。
そして車は市内を通って城西へと到着した。
「それじゃデコボココンビおつかれさま」
椿は窓から顔をだして手を振る。
「恭介! すぐゲームしにいくからな、良太と家にいろよ」
「わかった。松尾君もいろいろありがとう」
松尾は歯を剥き出しにして笑った。
「おう! おまえらもがんばってたぜ!」
そうして車は中学校を右折し横切ると、大通りへと出た。
「今日は、女三人と隆君は一つ屋根の下ね」
隆は吐息をついた。
「また一人ふえんのかよ……ありえねぇ」
「隆さんにはご迷惑を――」
「もういい、そんな痒くなる」
フルハウスに到着すると、マスターはまだ帰っていなかった。まだやり残したことがあるのだろう。隆たちは車を降りて二階に上がり家に入った。
舞は生活感のある部屋の中をくまなく見て歩いた。そして言った。
「真紀さんがここで暮らしていたんですか?」
真紀はうなずいた。
「ありえません。きれいにかたづいていますし、これは……」
舞は、冷蔵庫の上に小さく三角形になっている。スーパーの袋を手に取った。
「何かの間違いでしょうか?」
真紀は狐につままれたような顔をしている舞を見て、
「本当だよ? でもね椿ちゃんのおかげ」
真紀がそう言うと、椿は時計を確認して、夕飯の準備をしようと台所に立った。
「なるほど、そういうことですか、ご迷惑をおかけました」
椿はエプロンをして振り返る。
「いいんですよ。お金だってもらっているし、好きでやってますから」
「家政婦だからな我が家の」
「そうですか……とっても恵まれた環境です。あの防音の扉の奥はスタジオですよね」
隆はうなずく。
「それもこの市内屈指の設備だからな」
「ありがとうございます。ステージを見るだけじゃ信じられませんでしたが……そういうことなのですね」
「舞ちゃん、設備じゃないよ。源さんのおかげ」
舞は(?)眼鏡を押し込む。
「わたしのね、歌をね叱ってくれて、親切に教えてくれた先生。ライブの片付けのときにヴォーカルしてたでしょう」
舞は合点がいったようだ。
「そうですか……納得できました」
椿が台所から顔を出した。
「今日は何が食べたい? 頑張ってくれたから豪華にするわよ」
椿がそう言ったので舞は、
「私にも手伝わせてください」
そう言って台所に向かった。
台所の扉が閉まるのを見計らって真紀は、隆に抱きついた。
「きたらどうすんだよ」
「別に良いよ」
「よかねぇよ」
ベットから立ち上がろうとする隆。思いの外真紀の力は強い。
「ねぇ隆君、わたし髪の毛なくなっちゃったね。今までで一番好きな髪型だったのに」
真紀の瞳は膜を張り始めた。
「前も良かったけど、今もその良い」
隆がそう言うと真紀は首を傾げた。
「前も今も変わらず綺麗だってことだ」
「ありがとう」
「おれはおまえで、おまえはおれか……」
「ねぇ隆君、何があっても真紀は隆君のことが好きだからね。どんなに離れていても」
隆は真紀の唇に軽いキスをした。
「初めて隆君からキスしてくれたね」
「一度目は、どっちからしたのか、わからなかっただろ」
こくりとうなずく真紀。
真紀がゆっくりと唇を近づけ、隆の唇に重ね合わせたとき、ちょうど扉は開いて椿が顔を覗かせた。
「あ……」
椿は顔を真っ赤にして扉を閉めた。
夕食は少しだけ遅くなった。
時計の針が二時を回った。真紀は布団がこすれないように慎重に起き上がった。
隆は背を向けて眠っている。視線を下げると舞と重なり、次に椿と重なった。真紀はゆっくりとうなずいた。そして眠っている隆を起こさないように頬に唇を当て、ゆっくりと起き上がる。次に小城舞が、次に椿が、三人は各自、手荷物を持ったりしていたが、真紀だけは何も持たなかった。パジャマのままである。台所に続く扉を開け、玄関に出て靴を履く。後ろには舞と椿が控えている。真紀は靴を掃き終わって、取ってに手をかけた。
するとそのとき滂沱と涙が溢れ、真紀は扉を開くことができなかった。椿はそっと背中に手を置いた。
「いつも真紀が起こして、三時にね散歩をするの、でも……最近は隆君が先に起きて真紀を起こしてくれるの……隆君が起きたらどう思うかな悲しいよね」
真紀は小声でむせび泣いた。
「でも、これしか方法がないから……現実は残酷だから、ごめんね……」
真紀は涙を拭うことすら忘れて扉を開けた。
夜風がびゅと吹いて、髪に違和感を感じた。
「そっかぁ髪の毛きっちゃんだ」
そういって、ふらふらと歩き出した。
二時半に玄関のチャイムが鳴って源二は不機嫌に起き上がった。傘立ての中に入れてあったバットを持って、扉を開けた。
涙でぐしゃぐしゃになった真紀がなんとかきちんとした顔を保とうとしていた。
声はかすれ話せないのだ。真紀の後ろには舞が立って、横には椿がいた。
源二はバットを置いて、腕を組んで待った。無言のときが流れた。
「真紀さんがお世話に――」
「誰じゃおまえは」
舞は源二に一蹴された。
真紀は嗚咽をもらしつつも口を開こうとした。
「決心がついたんか」
こくりこくりとうなずく真紀。
「おまえはわしの教え子やけん、どんなに辛いことがあっても前に進める」
そこで止まりかけた真紀の涙はまた流れ始めた。
「源さん……心からありがとう、それとよかったねぇ……引退ライブ……」
真紀はそう言って源二の胸の中に飛び込んだ。
「おまえは変わった子や、舞台の上で啖呵きったり、弱々しかったりでもな、あのとき初心に戻れたけん今があるんど。それをな――」
そこまで言って顔を背けて真紀の頭を優しく撫でた。
「もういけ、それで二十四時間心で歌い続けろ」
「ありがとうございました!」
真紀は深く一礼した。そして踵を返す。
「椿ちゃんメールはするから、隆君のことよろしくね」
「真紀も無理はしないようにね、あたしたちは親友なんだから、どんな時間にメールしても電話してもいいから」
「うん、それだけがたより」
「これから地獄にいくみたいな言い方をして」
椿がそう言うと、
「ある意味地獄だと思いますよ」
真紀は一瞬の隙を見て、椿の頬に軽く唇をつけた。
「友情の証、嫌な役を押しつけたお礼」
椿は顔を真っ赤にし真紀の胸を叩く。
タクシーは人のいないひっそりとした道路に止まった。
「来ましたね、真紀さんいきましょう」
舞がそう言うと、椿の頭を優しく撫でて真紀は椿に背中を向け歩き出した。
二人が車内に乗り込む。
真紀は車がでる寸前、口に左手をかざして掌を素早く裏、表と返した。椿もそれに習う。
「ありがとう」
真紀がそう言った気がした。
そしてタクシーは夜の町を走っていった。
椿はそれをステージから遠巻きに見ながら、老人バンドが主導になって行っている片付け作業を手伝おうと、PAに向かい背を向けているマスターの下にいった。
真紀が小城舞を見つけて、役員席のほうにいってしまったので、隆も真紀の後を追った。
良太と恭介は今も半ば放心状態を保って、ステージ端の置物になりつつある。
「こら、良太! 恭介!」
源二が怒鳴ると良太は我に返り恭介に倒れかかった。恭介はロボットのような動きで顔を少し動かし黒目を下げた。
「おれ、おれ……」
「チェックチェック、すごかったおれ、でしょ?」
良太は口に手を当て素早く掌をひっくり返して言った。
「そう、それ、良太君!」
恭介は思い切り良太を抱きしめた。
「本当やり遂げたんだねぼくたち……」
「このガキどもが! はよこんか!」
二人は慌てて源二の下へと向かった。
良太が、ユキエに挨拶をしたときだった。三つ揃いを着こなした、小太りの男が現れた。
「岩城さん、本当にお世話になりました。沢山の機材と人材をお借りして――本当はね、カラオケ大会だから、こっちはカラオケの機械でやろうとおもってたんですよ。いやぁ……生バンド、良かったですね……それにあんなサプライズがあったなんて、私共はもう……」
と、言って目を潤ませている。
「片付けはさせてください。皆さんの手はこれ以上借りられません。居鶴のため、いや鶴差の人たちのせめても恩返しです」
源二が起き上がった。
「これやけんやくしょんやつぁ……芸能人が――」
そこでマスターがさっと手を挙げ源二の口を止める。
「わかりました。わたしたちも、歳にはかなわない」
マスターがそう言ったので、役員はステージを降りていった。
源二は鼻を鳴らす。
「あんちゃんたちも、もういいけん、今日はおつかれさん」
ユキエはそう言って良太の頭を撫でた。
椿は良太と恭介に合図をした。
「ありがとうございました!」
三人の元気良い声に老人たちは思わず頬が緩んだ。
良太と恭介は役員席にいる真紀たちの下へと向かったが、椿は一人舞台の片隅でギターのブリッヂを無意識にさすりながら、考えていた。
ライブで演奏しているときは今まで以上に心が躍った。しかし終わってみれば何かが重く背中にのしかかっているような気持ちになった。(なに? みんな良い演奏したじゃない、ライブは大成功じゃない、何がいけないのよ?)椿は自問自答を繰り返す。
役場の人がテントの外をかこい、中は見えてはいるが、立ち入り禁止になっていた。その場所に向かって良太と恭介は走っていった。役員が真紀に話しかけ、二人は通される。その先には真紀と隆が並んで立っていた。椿は隆の姿を見て、胸の痛みを覚えた、どこが痛むのかがまったくわからない。そしてその痛みの正体を漠然と掴んで、ギターをかき抱いた。
源二はステージから観客席を見渡す。誰も座っていないパイプ椅子は寂しそうにそこにあった。ユキエは生バンドが置いていったベースを手に取り、眺めている。マスターはPAの後部から顔を上げた。
源二は空を見上げた、千鳥は飛び交い鳴いていた。
大きく息を吸い込み吐いた。
隣にあったマイクスタンドからマイクを取った。
マスターと目を合わせて深くうなずく。ユキエを見て皺が刻まれた顔を歪めた。
ゆっくりとドラムスローンに腰掛けるマスター、腰を曲げ所定の位置に立つユキエ、
ベースの音がリズムを刻む、ドラムがそれを追いかける、源二は苦笑いをして歌い出した。
椿は老人バンドの音を聞いて、濡れていた両目をそのままに、繋がっているコードを確認して、顔を上げててギターをひき始めた。
源二は思った。死んだ大蔵が笑いながらギターをひいていると、今にも叱咤されそうで背中がかゆくなった。
ユキエの唇は震えている。マスターは悟りきったような表情だった。
今日の音色はどこか暖かい。隆は口をつり上げてにやりと笑った。良太と恭介は見とれている。真紀は敬意という言葉を胸に、真剣な顔をして、
やがて緩やかな波が去った。老人バンドは、皆ギターがいるであろうその位置を見た。一瞬だけそれは夜空の星が輝くように光を放った。そして三人は囁くような大蔵の声を確かにきいた。
「おまえら、まだやっとるんか、こりんのぅ」
大蔵の声はひたすら暖かく笑っていた。
演奏が終わると、源二は言った。
「これで心置きなく引退できるなぁ、ユキエ」
「大ちゃんが……」
と、ここまで言ってユキエの声はでなくなった。
椿はこの光景を見ていて思った。言葉には表せない音があって、時々こうして偶然の重なりでそれが繋がってしまうのだと。
自分の気持ちを思うと、苦しい。でも今は――。
帰りはとても穏やかで椿の表情は安心しきっていた。
「やっぱり車はこうでなきゃね」
「あんなに怯えてたのは椿ちゃんだけ」
「真紀さん、まさか……この車を運転していたんですか?」
小城舞はハンドルを匠に操作し、峠を越えていく。
「うん。真紀ね、すごい上手なんだよ運転」
「そんな……ペーパードライバーで反応の鈍い真紀さんが運転だなんて……」
椿はクスクスと笑って、短くなった真紀の髪の毛を後部座席からわきわきと弄ぶ。
「小城さん、こいつの運転すごいよ。車がさ、シーソーみたいになるからな」
隆は持っていたウィッグを良太の頭の上に乗せた。
良太は「わあ」と大げさに驚いて、目をぱちくりとさせた。
恭介はそんな良太の姿を見て、
「隆君には勝てないけど……かわいい」
松尾が恭介の肩に肘を乗せて、
「まぁ、本物と偽物の差か……血は争えん……でも良太、気を落とすことはないぞ、ロ、ピーで女装したおまえは、恭介の好みにぴったりだ」
松尾はぬっと顔を突き出し、迫った恭介にたじろいだ。
「隆さん、今まで本当に真紀さんがご迷惑をおかけしました。社を代表して私が――」
隆は険しい顔に一瞬なって、
「やめてくれよ。おれは逃げる前から知ってたし、こいつを当時は友達と思っていたし」
隆がそう言うと、椿が唇を釣り上げて隆を見た。まるで弱った魚を追い詰める鮫のような顔つきになった。
「みんな、聞き逃さなかったわね? チェックチェック、当時は友達と思っていたし」
隆が椿を嫌そうに見て、舌打ちをした。舞は(?)
「舞ちゃんごめん……真紀ね、隆君とキスしちゃった」
真紀が悪びれもなく言うと、
「浮いた話しひとつなかった真紀さんが、こんな少年と……失礼、未成年という意味ですよ隆さん」
「真紀、おまえってさ、そういうこと言うの好きな、もう俺あきらめたわ」
隆は掌を合わせ後頭部に支える。
「キ、キ、キスキスキス……って」
椿は顔を真っ赤にし俯いた。
「く、口と口が出会う……やつ……?」
「そうに決まってるじゃん。椿ちゃんも真紀としてみる?」
椿の心は完全に沸騰した。
「僕は、それくらいしてるだろうとおもってたけど、ねぇ恭ちゃん? だって目の前で抱き合ったりしてるもん」
恭介は恥ずかしそうに頭を下げた。
「俺様は、キスどころか――」
椿は松尾の額をぴしゃりと叩いた。
「椿ちゃんって、恋は知っているわなんて言ってたけど、そういうことは恥ずかしいんだ。かわいいね」
「わたしだって、キスくらいしってるわよ!」
恭介の目は点になった。
「相棒、無理してるのばればれ」
隆がそう言うと椿は隆の胸をぽこぽこと叩いた。
「うるさい! わたしはリーダーよ静かにしなさい!」
車は峠を越え、鶴差市内に戻ってきた。
「舞ちゃん、そこをね左、うん」
真紀が道を教える。
「真紀……嘘を教えてどうするのよ、右でしょ」
舞はたまらず、
「どっちですか?」
「右で、ごめんね、運転しているのと、横にいるのって違うから」
舞はため息をついてハンドルを右にきった。
そして車は市内を通って城西へと到着した。
「それじゃデコボココンビおつかれさま」
椿は窓から顔をだして手を振る。
「恭介! すぐゲームしにいくからな、良太と家にいろよ」
「わかった。松尾君もいろいろありがとう」
松尾は歯を剥き出しにして笑った。
「おう! おまえらもがんばってたぜ!」
そうして車は中学校を右折し横切ると、大通りへと出た。
「今日は、女三人と隆君は一つ屋根の下ね」
隆は吐息をついた。
「また一人ふえんのかよ……ありえねぇ」
「隆さんにはご迷惑を――」
「もういい、そんな痒くなる」
フルハウスに到着すると、マスターはまだ帰っていなかった。まだやり残したことがあるのだろう。隆たちは車を降りて二階に上がり家に入った。
舞は生活感のある部屋の中をくまなく見て歩いた。そして言った。
「真紀さんがここで暮らしていたんですか?」
真紀はうなずいた。
「ありえません。きれいにかたづいていますし、これは……」
舞は、冷蔵庫の上に小さく三角形になっている。スーパーの袋を手に取った。
「何かの間違いでしょうか?」
真紀は狐につままれたような顔をしている舞を見て、
「本当だよ? でもね椿ちゃんのおかげ」
真紀がそう言うと、椿は時計を確認して、夕飯の準備をしようと台所に立った。
「なるほど、そういうことですか、ご迷惑をおかけました」
椿はエプロンをして振り返る。
「いいんですよ。お金だってもらっているし、好きでやってますから」
「家政婦だからな我が家の」
「そうですか……とっても恵まれた環境です。あの防音の扉の奥はスタジオですよね」
隆はうなずく。
「それもこの市内屈指の設備だからな」
「ありがとうございます。ステージを見るだけじゃ信じられませんでしたが……そういうことなのですね」
「舞ちゃん、設備じゃないよ。源さんのおかげ」
舞は(?)眼鏡を押し込む。
「わたしのね、歌をね叱ってくれて、親切に教えてくれた先生。ライブの片付けのときにヴォーカルしてたでしょう」
舞は合点がいったようだ。
「そうですか……納得できました」
椿が台所から顔を出した。
「今日は何が食べたい? 頑張ってくれたから豪華にするわよ」
椿がそう言ったので舞は、
「私にも手伝わせてください」
そう言って台所に向かった。
台所の扉が閉まるのを見計らって真紀は、隆に抱きついた。
「きたらどうすんだよ」
「別に良いよ」
「よかねぇよ」
ベットから立ち上がろうとする隆。思いの外真紀の力は強い。
「ねぇ隆君、わたし髪の毛なくなっちゃったね。今までで一番好きな髪型だったのに」
真紀の瞳は膜を張り始めた。
「前も良かったけど、今もその良い」
隆がそう言うと真紀は首を傾げた。
「前も今も変わらず綺麗だってことだ」
「ありがとう」
「おれはおまえで、おまえはおれか……」
「ねぇ隆君、何があっても真紀は隆君のことが好きだからね。どんなに離れていても」
隆は真紀の唇に軽いキスをした。
「初めて隆君からキスしてくれたね」
「一度目は、どっちからしたのか、わからなかっただろ」
こくりとうなずく真紀。
真紀がゆっくりと唇を近づけ、隆の唇に重ね合わせたとき、ちょうど扉は開いて椿が顔を覗かせた。
「あ……」
椿は顔を真っ赤にして扉を閉めた。
夕食は少しだけ遅くなった。
時計の針が二時を回った。真紀は布団がこすれないように慎重に起き上がった。
隆は背を向けて眠っている。視線を下げると舞と重なり、次に椿と重なった。真紀はゆっくりとうなずいた。そして眠っている隆を起こさないように頬に唇を当て、ゆっくりと起き上がる。次に小城舞が、次に椿が、三人は各自、手荷物を持ったりしていたが、真紀だけは何も持たなかった。パジャマのままである。台所に続く扉を開け、玄関に出て靴を履く。後ろには舞と椿が控えている。真紀は靴を掃き終わって、取ってに手をかけた。
するとそのとき滂沱と涙が溢れ、真紀は扉を開くことができなかった。椿はそっと背中に手を置いた。
「いつも真紀が起こして、三時にね散歩をするの、でも……最近は隆君が先に起きて真紀を起こしてくれるの……隆君が起きたらどう思うかな悲しいよね」
真紀は小声でむせび泣いた。
「でも、これしか方法がないから……現実は残酷だから、ごめんね……」
真紀は涙を拭うことすら忘れて扉を開けた。
夜風がびゅと吹いて、髪に違和感を感じた。
「そっかぁ髪の毛きっちゃんだ」
そういって、ふらふらと歩き出した。
二時半に玄関のチャイムが鳴って源二は不機嫌に起き上がった。傘立ての中に入れてあったバットを持って、扉を開けた。
涙でぐしゃぐしゃになった真紀がなんとかきちんとした顔を保とうとしていた。
声はかすれ話せないのだ。真紀の後ろには舞が立って、横には椿がいた。
源二はバットを置いて、腕を組んで待った。無言のときが流れた。
「真紀さんがお世話に――」
「誰じゃおまえは」
舞は源二に一蹴された。
真紀は嗚咽をもらしつつも口を開こうとした。
「決心がついたんか」
こくりこくりとうなずく真紀。
「おまえはわしの教え子やけん、どんなに辛いことがあっても前に進める」
そこで止まりかけた真紀の涙はまた流れ始めた。
「源さん……心からありがとう、それとよかったねぇ……引退ライブ……」
真紀はそう言って源二の胸の中に飛び込んだ。
「おまえは変わった子や、舞台の上で啖呵きったり、弱々しかったりでもな、あのとき初心に戻れたけん今があるんど。それをな――」
そこまで言って顔を背けて真紀の頭を優しく撫でた。
「もういけ、それで二十四時間心で歌い続けろ」
「ありがとうございました!」
真紀は深く一礼した。そして踵を返す。
「椿ちゃんメールはするから、隆君のことよろしくね」
「真紀も無理はしないようにね、あたしたちは親友なんだから、どんな時間にメールしても電話してもいいから」
「うん、それだけがたより」
「これから地獄にいくみたいな言い方をして」
椿がそう言うと、
「ある意味地獄だと思いますよ」
真紀は一瞬の隙を見て、椿の頬に軽く唇をつけた。
「友情の証、嫌な役を押しつけたお礼」
椿は顔を真っ赤にし真紀の胸を叩く。
タクシーは人のいないひっそりとした道路に止まった。
「来ましたね、真紀さんいきましょう」
舞がそう言うと、椿の頭を優しく撫でて真紀は椿に背中を向け歩き出した。
二人が車内に乗り込む。
真紀は車がでる寸前、口に左手をかざして掌を素早く裏、表と返した。椿もそれに習う。
「ありがとう」
真紀がそう言った気がした。
そしてタクシーは夜の町を走っていった。