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長編物語ブログ

 うんざりするほど長い物語です。
 でも不思議と中毒性があるかもしれません。
 
 
<チームイミタン>
イラスト担当:t2 文章担当:イミタン

 思い出は裏切らない
 しかし甘美に捉えれば捉えるほど
 未来も訪れない

 スピリチュアルの記事には
 占いの広告が貼ってあって
 パワーストーンの記事には
 出会い系の広告が貼ってあって

 迷うのは自分の中
 人が迷うのではない
 カラオケボックスの前にいる男性は
 両手で顔を覆って泣いているように
 見えているが
 貴方の死角ではきちんと携帯電話があって
 振り返ると笑顔
 
 答えは常に自分
 自我の中にこそ幸福がある
 それを知るには潤うことだ
 生きるという証をもつことだ
 心惹かれる何かを見つけることだ

 記憶は扉だ
 数だけあるそのとっては豪奢な作りから
 品祖なものまである
 光があふれ出しているのかもしれない
 バックは暗闇かもしれない

 その扉は生きている
 生きているからこそ
 どんなに辛い事象でも
 光があふれなくてはならない

 自己啓発本を読もうとも
 ヨガをしようとも
 マントラを開こうとも
 仏陀でも聖徳太子でも
 それは貴方じゃない
 貴方はたった一人この世にいる
 それは貴方しかいないんだ
 感じ方は貴方しかわからないんだ

 恋路たたれようとも
 死の三秒がループしようとも
 そこにあるのは自己で
 何を感じるか否か
 痛みがあって
 喜びがあって
 悲しみがあって
 
 恋が溶け出して
 思考に埋もれてしまって
 もう雨のようにびっしょり濡れてしまっても
 それこそが貴方なんだ
 受け止めてしまえば
 卑屈の物差しの場所が知れる
 だから過去の扉を開けてごらん
 そこは暗闇の中
 そこら中から光りで溢れているから
 だから未来の扉を開けてごらん
 未知未知てはいるけれど
 過去の憧憬が理解できるような場所なんだ
 そこから有り難いお言葉を頂こうじゃないか
 
 昔を眺めて
 未来を馳せるとはこういうことだ
 そこから有り難いお言葉を頂こうじゃないか

 思い出は裏切らない
 しかし甘美に捉えれば捉えるほど
 未来も訪れない
 とてもじゃないけれど私は利口になれない。
 精神的に弱い人たちが気づくと周囲にやってきては、涙を流したり、無制限に私を肯定したりする。
 両極端に揺れるこの状況は、私にとっては害悪でしかなく、時折ストイックに本気で生きてみようかなんて考えてしまう。
 つまり性欲も情欲もなくせばあるのは自我という自分らしさだけだと、勘違いしている私は、正に精神を肉体で例えるのならば、満身創痍である。
 しかし私はこんな生き方しかできないのだ。
 雨粒を植物の根が吸い、それを捕食するかのように行われるのだが、霊長類は無自覚に行うこのさまを私は常に傷みというものがつきまとう。
 ただ単なる性格分析であるHSPというわけもわからない言葉が流行、ネット廃会社である私の女性である親友は誇らしげに、「痛みに敏感」だと謡うが、
 敏感なのは自尊心ではなかろうか、
 私のこの痛みはときとして当たり前すぎて、痛覚を越えている。
 虐待されたことのある者がいう、太い鉄の芯が胸の奥にある感覚に近いのだ。
 正に無知である。
 至極真っ当に生きているのかすら疑問である。
 hspとは血液型のようなもので、それをさして喜ぶ彼等彼女等は一体何なのだろうか、

 痛みという快感を知る者はそれでしか生きていけなくなるが、根底にあるものは痛みである。
 快感の後に傷みがあるのではない。
 それを本当に知るということはどんなことか、物事を考えあぐね、記事を読み、もしも本当にそのことが理解できた者は発狂する値である。

 昔書いた私の詩に、
「あそこに転がっている石は撲の身代わりなのだから」
という詩があった。
 今想えば自閉圏特有の考え方でもあるが、痛みを越えると投影でしか測れない、なので自閉圏、得にADHDは対人緊張も起きなければ、本人が嫌でも他人との関わりを求めざるおえない。

 自分らしさということについて最近よく考えることがある。
 私は何年もだれかに尽くして失った気がする。
 ここで実は毒を吐いたのは自分であったと、立ち返る自分がADHDだろう、今正にそう思う。
 私は本当に毒を吐かれた側の人間であるはずなのにだ。
 問題はここである。
 他者に対して絶対的に嫌な所はないと、素で思えてしまう異常さこの間口の広さは海のようであり、現実をわきまえることができない。
 返ることのできない自分である。
 これからも努力で補えないだろう。
 
 私はただただ痛いのだ
 痛すぎてそれが当たり前になっているだけだ。
 それを快感にも変えよう、それはそのはずだ直視できないのだから。
 隆は椿と早々に帰宅し、良太は美咲と約束があるとメールが入った。恭介は危機感を抱いていた。豊漁祭まではあれほどバンドに励んでいたというのに、真紀がいなくなって、三年生になってクラスが変わって、メンバーの間に距離が生まれてしまった。良太が苦労して集めたメンバー、恭介は今度は自分の手でデコボコバンドを以前の状態に戻そうと決意した。
「なんだか、恭介にしては難しい顔をしているな、ま、なんとなくおまえの考えそうなことはわかるが……おれさまにもできることは……聞くだけ野暮か、ありそうだな?」
 恭介は少しだけ笑って鞄を背負い直した。放課後とあって生徒たちは三々五々と帰宅していく。
「おまえ、今笑っただろ!」
 ぬっと松尾の前に顔を出す恭介。
「わかった! きもいわ」
 二人は、駐輪場に向かった。
「おい、後ろに乗せてくれ、おまえんちにゲームにしにいく」
「だめ」
「かてぇこというなよ、おれんちまででいいんだ」
「だめ」
 恭介はそう言って自転車を押し始めた。

 噴水公園にある三角屋根の休憩所で美咲と良太は向かい合っていた。
 ここにつくまで饒舌だった美咲も、座って、さて今から話しを始めようとすると、途端に貝のように口を閉じた。良太はころころと表情を変えて、美咲を促すがそれでも黙っているので、吐息をついてから空を見上げた。
 晴れ渡る空、少し前まではいつも賑やかで、楽しかった毎日、教師は「進路」という言葉をよく使うようになってきたし、そこはかとなく寂しさを憶えてしまう。
「あのね、SAYAさんいたでしょう、芸能人の……良太君たちと一緒にバンドした」
 良太は座り直し頭を下げた。
「あの人のことを記者に言いつけたのはわたしなの……フルハウスの前で待っていて、SAYAと良太君が仲良く話しているところを見て、わたし……勘違いして……良太君がSAYAのこと好きだって……それでね」
 美咲は両手で顔を覆いぼろぼろと涙を流し始めた。
「本当は、悔しかったんだと思う。いつも楽しそうな顔をしてたし、それに嫉妬したのかもしれない」
 美咲は泣きながら一瞬良太の顔を伺った。
「良太君、わたし一年のころから好きだった。良太君が髪を切ってオシャレをするようになる前から」
 話しを聞いていた良太は目が点になっていた。美咲が真紀のことを記者にたれ込み、その原因は良太にあって、あまつさえ一年のころから好きだと言う。
「どうして、僕なんかを好きなの? 自分で言うのもおかしいけど、かっこよくもないし、これといって取り柄もないしね」
 美咲は首を横に大きく振る。
「そんなことない、女子たちにも人気だし、見た目だってかっこいいし、性格だって優しいもん。でも、わたしは良太君の笑顔、そこが一番素敵だと思う」
 涙を拭きながら力説する美咲。
「信じられないよ撲……美咲さんが撲のことを好きだとか、真紀さんのことを記者に話しただとか」
 良太は立ち上がり、美咲に背を向けた。
「良太君……」
 弱々しい美咲の声が良太の背中にかけられるが、良太は鞄を持ってその場を逃げ出した。
 松尾は遊歩道から噴水公園を走って横切る良太を口を開けて眺めた。
 芝生の上を走る姿は、ひ弱な良太の姿だとは思えない。
「なんだありゃ?」
 恭介も呆然と眺めていた。
「いかないと」
「いい、ほっとけ、どうせ逃げたんだろうさ」
 松尾は噴水公園の休憩所で泣きじゃくる美咲を見て言った。
「泣いている女と逃げている男、おまえならどっちを助けるか言わなくてもわかるな?」
 恭介はこくりとうなずいた。
 それから休憩所にいる美咲の下へ二人は足早に向かった。
 美咲は恭介に気づくと、ハンカチで急いで顔を整えようとしていた。
「津田さん、何があったのか、おれに話してくれる?」
 恭介がそう言って座ると、美咲はゆっくりとうなずいて語り始めた。
「良太君のことを好きなのは、おれ知ってた」
「だと思った。うらやましいっていつも、わたしに見られてたでしょう」
「見られてたというよりも、睨まれてたような……」
 美咲は「あはは」と乾いた笑い声を上げた。状況を説明するうちに気持ちもおちついてきたのだろう。いつもの美咲に戻りつつあった。
「ま、ちくったりするやつは最低だ。そのことに関しちゃ、おまえが悪い。でもな……謝るやつがちげぇよ。それに、もし記者に隆といるところをスクープされてなきゃ、真紀さんも、あそこまで思い切ったことはできなかっただろう? おかげであいつのことが学校にばれて謹慎なんてことにはなってねぇ、それに気づかないあいつもバカだが……とにかく謝るんなら、隆に謝れ、何を言われてもな」
 松尾がそう言い切ると、美咲は決意を込めて、
「わかりました。連れていってもらえますか?」
 と、言った。恭介は辺りを見渡し、良太を捜していたが、戻ってくる気配はなかった。

 明らかに嫌そうな声していた。しかし恭介はあえて無視をした。
「隆君、少しでいいから話しをしよう」
「だからいったじゃねぇか、バンドはしばらく休みだってな」
「バンドじゃない、大事な話が――」
「あっ椿、この裏切り者が!」
 扉は開いた。椿は恭介と松尾の間にいる美咲を見て、「あら?」と言った。
「まあ、上がりなさい、今、お茶を入れるから」
 三人は隆がいる居間に通された。
 窓に近い本棚の上には大量に鞘のCDが山積みされていた。冷蔵庫の上にある食器棚にはお揃いのマグカップが三つ並び、壁には真紀がいるときのままかけられている真紀のコート。ピンポン球が枕元に転がり、壁にはオブジェのようにペットボトルが二列になって六つ並んでいた。
「ここが愛の巣か、おれ様初めてきたぜ、真紀さんと隆が暮らしてた――」
「松尾、おまえ帰れ」
 早速、隆は顔をしかめ不機嫌な顔で言った。
「恭介、大事な用事って何かあったの?」
「二年のころクラスで同じだった、津田さん」
 初見の隆と椿に津田を紹介するが、椿は軽く頭を下げ、
「あたしは、山中椿」
 と、椿は言ったが、隆は津田のほうを見ようともしない。
「で? 用事って何、恭介?」
「あの、隆さんにお話があってきたんです」
 美咲が隆に向かって頭を下げる。
「わたしなんです。SAYAさんのことを記者に喋ったのは……」
 それまでやる気なさそうにしていた隆だったが、美咲がそう言うと、目の色を変えて美咲を睨んだ。
「良太君のことが好きで、SAYAさんに好意を持っていると勘違いしていました」
 深く腰を折って謝る美咲。
「おまえのせいかよ!」
 隆は叩きつけるように言った。
「隆、落ち着いて」
 椿は誰も隆を止めることができない中、静かに言った。
「おまえは黙れ、いいか、おれはな、ヤンキーとちくったりするようなやつが一番好かん。自分勝手に回りに害を与えて、謝れば済むと思ってやがる。世の中是々非々とばっかり回ってねぇんだよ! おれはな、あいつにまだ何も言ってなかったんだ! それすら許されなかった。おまえはなんだよ、良太がすぐ近くにいるじゃねぇか! いつだって言える。おれにはそれがもうできねぇ!」
 隆は怒鳴った。しんと静まり帰る空間。
 松尾は腕を組んで聞いていたが、隆の前に進み出た。
「おれ様の知ってる隆は、そんなもんか? 芸能人だから何だ! 会えないから何だ! おまえの歌はそんなもんじゃねぇだろ! 真紀さんに届けることもできねぇのかよ! 自分みうしなってんじゃねぇ」
 隆は立ち上がり松尾の襟首を掴む。
「おまえに何がわかる?」
 恭介は台所のほうへと向かった。
 松尾と隆は取っ組み合いを始めた。椿は吐息をついて、壁際に美咲を導いて害を逃れた。
「この女がわりぃんだ。ちくったからいなくなったじゃねぇか!」
「最近は、少しはこれでもましになったのよ、真紀がいなくなってからすぐはもう、わたしですら手がつけられなかったんだから」
 美咲は震えながら椿の言葉を受け止めた。自分の安易な行動がまさかこんな結果になろうとは思わなかったのだろう。
「おいおまえ、土下座しろ」
 そのとき扉は開いた。中からは恭介、それから良太が続いてきた。美咲は顔を伏せた。
 隆は近くにあったペットボトルを手に取った。
 良太が手を広げて美咲の前に立つ。
 隆が投げたペットボトルは良太の額に直撃をした。
「美咲さんも苦しんだよね。撲考えてたんだ……様子がおかしくなって、メールもこなくなったし、それから撲の前で……今想えば怯えてたかな……」
 良太は振り返り美咲を見た。
「確かに最低なことだと思う。でも、僕たちだって、最低なことしてるよ。真紀さん本当は僕たちといつまでもバンドしたかったんじゃないかな……ふつうに考えたらわかるよね、隆君のことだってそう。テレビに映った真紀さんは時々隆君になってる。チェックしてるよね。なのに隆君はしてるの? 真紀さんの思い伝わってるんじゃないの? ね、僕たちも真紀さんに笑顔を届けよう。だって、それができるんだから、ライブのときはできたんだから」
 良太はそう言い切って深く深呼吸をした。
 取っ組み合いをしていた二人も、だらりと床に座り込んだ。
「ほんとにだらしないんだから、リーダーとして言っておくわよ。真紀はいつまでたってもデコボコバンドの一員。あのときは期間限定なんて言ったけどね」
 そう言って椿は少し笑った。
「三年になってみんなばらばらになって、それでもうバンドは終わり? 先生たちが進路は大事だからって言うから? 関係ないでしょうそれは、いい、明日からデコボコバンド始動するわよ! あたしたちの姿を真紀に見せて驚かせてやるくらいの気持ちでいなさい!」
 椿がそう言うと、隆は立ち上がる。
「悪かったな……言い過ぎた。だがおれはおまえを許さない。でもな、おまえが来て、こうやって騒いで気づいたわ」
 隆は美咲にそう言って、天井を見上げ、
「あいつ今日の朝も言ってたぞ、アリエネェって」
 隆は手に口にかざして、裏、表とひっくり返して言った。
 恭介は良太の前にぬっと顔を出した。
「良太君……デコが赤い……」
 一人が笑い、また一人が笑う。そして、椿は美咲の耳元で、
「あたしが真紀に伝えておくわ、あなたが心底反省してあやまってたって、こうなったのも何かの縁。あなたもたまにはスタジオに顔を出しなさい」
 小声でそう言った。
 椿の一言で美咲にあった憑きもののように重い何かは音を立て崩れ去った。