潮の香りが漂い波止場には泡だった波が立っていた。恭介はドラムステックを二つ握って立っていた。
椿と隆が通じ合っていることは知っていた。
だからこの恋は初めから終わっているかもしれない。恭介が初めて山中椿に恋をしたあの瞬間も椿は隆のことを隆は椿のことを。
しかし男として悔しかった。あきらめるということが悔しかった。自分を止めることがいやだった。(どうして俺はどうして俺は)
恭介が睨むように海を見つめていると、後方から甲高い声がした。
「きょうすけぇ!」
凜は祖父と船で鶴佐に来ていた。港に船を泊めて歩いてきてみれば恭介がいたので、走って後ろから抱きしめ、高い位置にある恭介の顔を覗き込んだ。
「あれ? きょうすけないてる?」
恭介は目下を拭った。涙は流れていなかった。
「凜?」
恭介は振り返り、凜の身体をゆっくりと離した。
「どうしてここに?」
「おじぃちゃんときたの」
そこで祖父に気づいて恭介が頭を下げると、祖父も頭を下げ、歩いていった。
どうやら恭介は祖父に信頼されたようだ。
「いったけど……」
「うん。すぐちかくだからだいじょうぶだよ。いちばのほうにようじなのそれよりきょうすけ! どうしたの」
恭介はしばらく無言で海を眺めた。
「おれ、あきらめたら負けだと思ってる」
凜は恭介の真剣な表情をじっと見つめた。
「どんなことでもそこで終わってしまうんだ。でもどうしようもないことって、どうすればいいのかなって……実らないこととかどうすればいいかなって、祈っても祈っても届かない……俺の伸ばした手が迷惑ならどうすればいい? やっぱり今まであきらめてきたから汚れているのかな。俺だめなのかな」
凜は瞳を閉じた。そして両手で恭介の掌を包んだ。
「きょうすけはすごくあたたかいよ。りんそうおもうもん。きょうすけはこのうみみたいにとてもおおらかだよ。だからねおもいはとどくよ。りんうまくいえないけどね」
(俺は楽になろうとしてたのか……考えろ恭介)
「凜はとても小さな手をしているでも、とても力強い。俺その強さをもらった。ありがとう」
恭介はそう言って凜の頭を撫でた。
凜はにっこりと笑った。そして辺りを見渡し祖父を見つけると走っていった。何度も手を振って、
恭介が港から出て、学校の校門を通り過ぎようとしていると、壁に背をつけて松尾が顎を掻きながらこちらを見ていた。恭介が近寄ると、
「よぉロリコン」
恭介は松尾の頭を遠慮なく平手で叩いた。
「松尾って俺のストーカー?」
「ありえねぇだろ、きもいわ」
松尾は歯を剥き出しにして笑った。
「悪かった松尾」
「何ぃ聞こえねぇ」
恭介は一人で歩き出した。
横断歩道の前に良太が立って恭介たちに向かって手を振っていた。
二人が横断歩道まで行くと良太は笑っていった。
「やっぱり恭ちゃんバンドさぼった」
そうして三人は歩き出した。