荒い呼吸を繰り返しながら少女は辺りを窺った。
壊れた外灯が点滅し森閑とした路地の片隅で、セーラー服はボロボロであった。
外灯が点滅し、見目麗しい日本人形のような容姿が顔を覗かせた。
黒髪はすらっと伸び、大和撫子を思わせる容貌は、この状況をまるで映画の中か何かのシーンに思わせた。
少女は唇を引き結び、
「ルーシー」
と、親友を呼ぶようにか細くいった。
「ここに」
はたと現れた。
外輪は青白く恍惚とし、瞳は研ぎ澄まされ、毛髪は銀。
この夜闇がなくば、一見すれば犬だと映るが、その姿態の大きさと光る相貌で犬ではないと理解に及ぶ。
銀狼は少女の傍らに堂々と屹立していた。
「永遠にパパに会えなくなっちゃった」
少女は銀狼に言った。
「主よ、我は思う、鬼どもは人の魂を糧にして生きているが、ワードパクト(禁忌)の呪いがかかっている。それを解消できたなら、父君も元のお姿に……我の攻撃では効かぬ……」
銀狼は主に鼻をすり寄せて言った。
「いつかはこうなると思っていた。私はあの溜め池に守られていたから」
少女はそう言って震えだした。
「母君の結界も破れてしまった今、状況を打開するには父君をお助けし、他の幻獣と協力を」
銀狼は少女に決意を促した。
「ルーシー私は絶対、パパを助ける今はこれでいいよね……だったら鬼退治ね、私は浦島太郎ね、ルーシー奴らを許さないよ!」
少女は唇を噛みしめて言った。言葉は語尾になる連れてはっきりとした。
「御意」
少女は半眼になると、瞳を閉じた。
「風よ、自由を尊ぶ風よ私に力を貸して」
そう言葉を放つと少女の周囲の大気はぐんと重くなった。
初めはそよぐような、次第にそれは強まり厚みを増した。
少女の身体の周りには強風が吹き荒れた。
それらは少女を守っていた。
銀狼は気づいてた。自分たちがいる地点の数目トール先にある電柱の天辺に鬼がいると。
銀狼は疾風のごとく駆けだした。
すると鬼も電柱から飛び降り、銀狼に迫った。
一合目はここに始まった。
初撃、鬼の拳は空を切った。
銀狼はこぎみよく後方に避けると、無防備に硬直した腕に牙を立てた。
鬼の痛覚に届く前に、銀狼は腕から放れ距離をとった。
少女はこのチャンスを逃さなかった。
「風よ舞い散れ」
少女にまとっていた大気は、うねるように小さく圧縮し球体になった。
その幾つかが頭上にが浮かぶと、鬼に向かって肉薄した。
鬼は血を流し数歩よろめいたが、持ち直すと少女に向かって大きく跳躍した。
「主!」
銀狼は慌てたが、少女はにんまりと笑っていた。
「鬼子は逃げたか……まあでもね、貴方見てるでしょ、パパは取り戻すわ、必ずね」
少女はそう言って、意識を集中させた。
「風よ吹き荒れよ」
少女の回りの大気に鎌のような大きな爪が顕現した。
それは跳躍して向かってくる鬼に深々と突き刺さった。
鬼は倒れ藻掻いたが、しばらくすると、まがまがしい姿態が朧気になり、砂に変わった。
少女は、掌を口元に充てて、息を鬼に向かって吹きかけた。
鬼として存在していた身体は砂になり風に消えていった。
幻獣の守人 プロローグ