弱い男が覚醒する場所、『ノクターナル・アニマルズ』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『ノクターナル・アニマルズ

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】トム・フォード

【主演】エイミー・アダムス

【製作年】2016年

 

 

【あらすじ】

 美術ディレクターとして成功を収め、恵まれた生活を送るスーザンだったが、満たされない気持ちが募っていた。そんな時、20年前に別れた夫から小説が送り届けられる。スーザンは小説を手に取ると、その衝撃的な内容に引き込まれていく。

 

 

【感想】

 監督を務めたトム・フォードのブランド力は、かなりのものだと思う。ファッションだけでなく、有名な俳優がこぞって映画の出演を希望している。そんな空気を感じる。同じ現象はテレンス・マリックにも言えそうだが、出演することで大きな箔を付けられると考えているのかも。確かに映画は冒頭から飛ばしに飛ばし、受け入れられるかどうかは別にして、これが芸術だという大胆な映像を放っていた。

 

 

 ただこの映画、芸術を感じさせる映像美やファッションだけでなく、確固たるストーリー展開で勝負していた。ストーリーは現在と過去、現実と虚構が入り乱れる構成。難易度の高い題材だったが、手際よく捌いていて勢いに乗っていた。ただし結末に向かうにつれ、重さと暗さが増していく。軽い気持ちで観に行くと、不快感を押し付けられるかもしれない。犯罪シーンのリアルさが、後々まで胸に響いてくる。

 

 

 この犯罪のシーンを見ているときに強く感じたのは、銃があれば、という思い。銃があれば、銃を撃つ覚悟があれば、状況を変えられる。同じような思いを抱いた人は、少なからず居たはず。きっと一度銃を手にして、全能感を味わったり、安心感を得たりしたら、もう銃は手放せない。銃は信仰に近い気もする。銃を捨てて、数珠やお守りで満足することはなさそう。手に入れた権利やパワーは、当然のものとして体の一部になってしまう。