冒険に身を委ねて、『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』 | 平平凡凡映画評

平平凡凡映画評

映画を観ての感想です。

【タイトル】『マリーゴールド・ホテルで会いましょう

【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)

【監督】ジョン・マッデン

【主演】ジュディ・デンチ

【製作年】2011年


【あらすじ】

 老齢のイギリス人7人が、それぞれの事情を抱えインドのマリーゴールド・ホテルへと向かった。格安の高級リゾート・ホテルをイメージしていた彼らだったが、実際のホテルを目にして愕然とする。ホテルは廃墟同然の建物で、電話も通じなかった。それでも7人はマリーゴールド・ホテルに腰を据え、インドで新たな一歩を踏み出そうとする。


【感想】

 歳を取ると、段々と適応能力が衰えてくるような気がする。慣れ親しんだ仕事を繰り返し、似たような顔を毎日拝み、通い慣れた道を無意識に歩き続けていると、十年一日の日常が出来上がる。平穏無事な毎日は安心感を与えてくれるが、変化を恐れる気質を生み出すのかもしれない。見知らぬ人間を恐れ、非常識に腹を立て、変化に対して悪態を吐く。役人でなくても、役人根性は育てられそう。


 この映画の主人公は7人の老人たち。イギリスでのんびりと余生を過ごす選択肢もあったが、それぞれに止むに止まれぬ事情に背中を押されインドへ旅立つ。そしてイギリスの常識がまるで通用しないインドで、彼らは頭に染み付いた常識に修整を加える。ある人はすんなりと適応し、ある人は頑なにイギリス流を貫こうとする。悲喜こもごもの姿を、映画は軽い調子で描いていた。


 インドへは若いうちに行くべきなのかと思っていたが、何歳になっても刺激を与えてくれる国に見える。経済発展のニュースが聞こえてきたりもするが、イギリスや日本の常識を軽々と打ち壊す土着の力は今も健在のよう。町に人が溢れ、道路で牛が寝そべる映像を観ていると、スクリーンからでもインドの熱気が伝わってくる。


 そしてこの映画は、若者ではなく老人たちを主人公に据えていることで、柔らかさと奥深さを滲ませていた。よくあるロード・ムービーのような尖がった雰囲気はなく、どこかゆったりと足を進めるような大らかさがあった。そして死や決別といった事柄が、自然の流れの中で取り上げられていた。


変われればよし、変われなくてもまたよしといった感じで、あくせくしたところがほとんどないので、気持ちよくマイペースで映画が楽しめた。諦念を身に付けた老人は、心の底から旅を楽しめるのかもしれない。人生の終盤で、ちょっとした冒険を面白いと思える心と体の余裕を持っていられたら何とも有難い。でも心を柔らかく保つのは、なかなか難しそうだ。