【タイトル】『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』
【評価】☆☆☆☆(☆5つが最高)
【監督】トラン・アン・ユン
【主演】ジョシュ・ハートネット
【製作年】2009年
【あらすじ】
元刑事の探偵クラインは、シタオという男の捜索を依頼される。クラインはかつて殺人鬼を追い詰めた過去があり、その過程で殺人鬼に魅了されていた。一方のシタオは、人の傷を癒すという不思議な能力を身に付けていた。クラインは、シタオが香港に居る可能性が高いことを掴み香港へと向かう。
【感想】
感覚で観る映画なので、好き嫌いははっきりと分かれるかもしれない。主人公は元刑事の探偵ということで、ハードボイルドの雰囲気を強く漂わせている。しかし、ありきたりの真っ直ぐなハードボイルドの物語にはなっていなかった。明確なストーリーの軸があるわけではなく、印象的で美しい映像が淡々と繋げられている。瞬間瞬間で勝負した映画とも言えそう。
話題となったのは、各国のアイドルというべき俳優が顔を揃えていること。アメリカのジョシュ・ハートネットに日本の木村拓哉、韓国のイ・ビョンホンに香港のショーン・ユーとサム・リー。名前だけを見れば、ついつい豪華なアイドル映画かと思いたくもなるが、実際はかなりグロテスクでダークな世界を彼らが形作っていた。“ラブコメ”や“ハッピーエンド”、“正義の味方”といったイメージはきっぱりと捨てたほうがよさそう。
ストーリーは、聖書の話しをモチーフにしているようだった。似ているのかなと思えるのが、メル・ギブソン監督の「パッション」。あそこまではっきりとキリストを描いたり、求めたりはしていないが、現代に忽然と現れた救世主らしき男の姿をスクリーンの中で見ることができる。ただ、世界は彼が救える程度の軽症ではないようだ。
ダークな世界が登場しながらも、この映画がどこか瑞々しく見えたのは監督のセンスや才能に負うところが大きいのだろう。ハードな話しが続いても、決して柔らかさを失わない。「青いパパイヤの香り」や「夏至」でも同じ触感を放っていた。香港が映されていながら、香港らしさを強くは感じさせない。タラン・アン・ユンの撮る世界は、どこか浮遊していて無国籍の匂いがする。次回作は村上春樹の「ノルウェイの森」らしい。