花嫁のような、純白のドレスを着た生徒さん…そんな小さなプリンセスと連弾したのが、つい昨日のような気がします。

日曜日、最も輝いていた生徒さんの1人である彼女。

前回は、満足のいく演奏ではありませんでした。

いえ、私から見たら、合格点でした。

なんともなく見えるけれど、難しい技術が連続する曲で、
その上、生徒さんは、発表会前に、入院していたからです。


その発表会から数ヵ月後、
生徒さんのお母さまが、おっしゃいました。

「もう一度、あの曲で、舞台に上げてあげたいんです。クリアできないと、次に行けない気がするんです」

リベンジの場の彼女は、家族の和やかな空気に守られていました。


今回の発表会前。

美しくまとめているけれど、あっさりしすぎているように感じたので、聞いてみました。

「どんな場面を思って、弾いてるの?」

「誰もいなくて、きれいな風景が広がっているんです」

「その周りに、音はある?」

「静かです」

ああ、そうか、と納得しました。

「自分が物語の主人公」ではなく、

風景が主役だから、シンプルな表現なのです。


「しなを作らない」「飾らない」「正統派」…誠実さが、彼女のピアノの良さ。


でも、発表会では、誠実さより華やかさを「うまい」と思われがち。

耳のある人は、彼女の音色の響きの良さをわかるけれど、そうでない人は?

「○ちゃんの家族と私は、○ちゃんのこだわりが、わかるよ。
ただ、もしも『お客さんにも認められたい』という気持ちが少しでもあるなら、ちょっと派手にした方が、良いと思う。

『先生がどう思うか』じゃなく、自分で決めて」


生徒さんは、長く長く沈黙し、ぽつりと

「どこを変えるんですか?」

「それは、今から二人で考えます。○ちゃんは、どこが山だと思う?」


当日の生徒さんの演奏は、根っこの強さがありました。

大自然は、誇張しなくても、完全であり、美しいもの。

「あるがまま」の美しさを表現できました。


私の家族が
「あの小さかった子が、名曲を上手に弾くようになったんだね」
と、何故か大喜びしていたのは、また別のお話。




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