ある生徒さんが高1の頃です。

彼女が好きな、ショパンのある曲をあげました。

スポーツで、全国を飛び回る生徒さんでした。

県外での大会と重なり、何回か、発表会に出ることが出来ませんでした。

そこそこ弾く生徒さんでしたが、数年ぶりの発表会は、良い出来ではありませんでした。

高1で、小5の頃と同じ気分で出ても、成功するはずがないのです。

大人に近づくと、緊張するようになります。


子供の時とは、違うのです。


「人前で弾く」発表会は、続けて出ていれば、そんなに苦ではありませんが、ブランクがあると、難しくなります。

「子供の頃と同じように弾ける」と思っていた生徒さんは、自分の演奏の不甲斐なさにショックを受け、家に帰ってから、泣いたそうです。



「ちょっとー、聞いたよ。泣いたらしいじゃないの」
あはははは、と笑うと

彼女も「へへっ」と照れ笑いをしました。



それから2年後の高3。

彼女の口から出た言葉は、

「あの演奏で終わりたくないんです。発表会で、成功させたい」
でした。


勿論、私の方でも、成功できなかった「技術面での」原因は、分析済みでした。


成功するために、彼女と私で選んだのは、ブラームス。

二人三脚のレッスンは、心の底から楽しかったです。

馴れ合いで楽しいのではなく、

娯楽で楽しいのでもなく

2人で1つの作品を作り上げ、学ぶ喜び。

ある日のレッスンは、ブラームスの本を読み、感想を言い合いました。


「先生、楽しいです。ピアノって、こんなに深く考えて弾くんなんて、知りませんでした」



発表会では、彼女は、心の奥底に染みていくような美しい曲をその年齢なりに味わい、演奏しました。


「ショパンが、うまく弾けなかった」…それは「結果」だったのでしょうか。

それとも「ブラームスを成功させるため」の「過程」だったのでしょうか。

どちらに視点をおくかは、人それぞれ
でしょう。



彼女は、お稽古ピアノの最後の日、長~い手紙をくれました。

「ショパンも、ブラームスも、先生と勉強した曲は、全部、大切な曲です」